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“「音楽する」ということを、
人々が音を介してある場所に「一緒にいる」
という地平から問い直したい。” ──石橋鼓太郎

語り手=石橋鼓太郎[東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科修士課程在籍]

東京都中央卸売市場足立市場で開催された「アートアクセスあだち 音まち千住の縁:野村誠 千住だじゃれ音楽祭『千住の1010人』」の参加者集合写真 2014年10月

──国際芸術創造研究科アートプロデュース専攻を志したきっかけは?

東京藝術大学音楽学部の音楽環境創造科に在籍していた学部時代に、「千住だじゃれ音楽祭」の一環で、タイ・バンコクやインドネシア・ジョグジャカルタの方々とのコラボレーション企画を何回か行ったことがきっかけです。軽やかに領域を横断しつつ、生活と密接に結びついているその音楽実践のあり方に、大きな衝撃を受けました。そこで、このような音楽実践の場では何が起こっているのかを明らかにしたい、そして、自分でもこのようなおもしろい実践に関わってみたい、と思うようになり、国際的な芸術創造に主眼を置く領域横断的なこの研究科への進学を志すようになりました。

──入学と領域(アートマネジメント)を決めた動機は?

僕の場合は学部時代からアートマネジメントを専攻していたので、とくに大学院に入学してから領域について悩むことはありませんでした。ただ、あらためてなぜ「アートマネジメント」なのかということを考えると、人々との関わり合いを起点として実践・研究ができる領域だからなのかな、と思います。というのも、自分がリーダーシップを取ってすべてを決めていくよりも、いろんな人との関係性の中で少しずつものごとが動いていくほうが、よりおもしろいことが起こると思っているからです。そのため現場では、あまり自分の立場や役割を決めすぎずに、その場に溶け込んで周りの人々と一緒に楽しむように心がけています。制作側なのに、演奏に加わるようなことも多いです。自分がその場でどのように振る舞うかによって、現場の空気感や人々の関わり方が少しずつ変わってくるので、これも「アートマネジメント」の一環だと思っています。

──アート/音楽に関心を持ったきっかけは?

音楽を好きになった最初のきっかけは、中学生のときにたまたま家にあったクラシック音楽のコンピレーション・アルバムを聴いたことだったと思います。その後高校に入ったときに、何か楽器を始めたいと思い、弦楽合奏の部活に入ってチェロを始めました。入部した後に気づいたのですが、弦楽合奏のレパートリーって、バロック時代のものと、19世紀末から20世紀初頭のものが多いんですよね。それをきっかけに、一方では古楽、一方では現代音楽に興味を持つようになり、そこから世界各地の民族音楽やプログレ、フリージャズ、実験音楽、即興音楽なども聴くようになりました。
またそれと同時に、音楽をただ「聴く」のではなく「する」ことにも魅力を感じるようになって、「音楽する」っていったいどういうことなんだろう、と考えるようになりました。この関心は、今でも変わっていません。

──大学時代はどんな勉強をしてきましたか?

大学は、先ほどお話ししたように、音楽環境創造科で、熊倉純子先生のもとでアートマネジメントを専攻していました。そこでは、市民参加型のアートプロジェクト「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」の一環で、「野村誠 千住だじゃれ音楽祭」の企画・運営・演奏に携わりながら、どうすれば多様な人々がともに「参加」できる音楽の場をつくることができるのか、ということについて考えていました。
卒業論文では、2014年に実施した市民参加型コンサート「千住の1010人」(だじゃれです!)をさまざまな角度から分析して、参加者である他者と「一緒にいる」という感覚が、どのように形づくられ変容していったかについて論じました。

──大学院ではどんな勉強・研究・実践を行っていますか?

大学院では、学部時代から関わっている「千住だじゃれ音楽祭」について、企画・運営・演奏に携わり続けながら、あらためて言語化する研究を行っています。とくに、多様な人々が集う緩やかな音楽実践の場における相互行為やコミュニケーションのあり方に関心があって、その質感をいかに言語化することができるのか、そしてそれはどのような意義を持っているのかについて考えています。この研究をとおして、「音楽する」ということを、能動的で主体的な「参加」より手前にある、人々が音を介してある場所に「一緒にいる」という地平から、あらためて問い直すような理論を構築したいと思っています。そのことが、現代社会で多様な人々が「一緒にいる」ための方法を考えることにもつながってくると思うのです。
また、それと並行して、東南アジアを中心とした海外との交流も行っていて、2016年12月には「千住だじゃれ音楽祭」の一環でインドネシア・ジョグジャカルタを、2017年3月には短期留学のようなかたちでタイ・バンコクを訪問しました。ここで得た経験も、うまく研究にフィードバックしたいと考えています。

「野村誠 千住だじゃれ音楽祭」の国際交流企画の一環として訪れたインドネシア・ジョグジャカルタでの即興演奏風景 2016年12月
現地のシラパコーン大学との交流事業の一環として短期留学に訪れたタイ・バンコクにて、伝統的な影絵芝居「ナン・ヤイ」の人形づくりを体験 2017年3月

──とりわけ印象深い授業、力を入れている授業はなんですか?

やはり、「グローバル時代の芸術文化概論」です。いろいろな分野の第一線で活躍されている先生方を世界中からお招きして、英語で講義をしていただくという内容の授業で、毎回とても刺激的です。自分の専門ではない分野・地域に関する話にも、自分が今考えていることに対するヒントがたくさん転がっていて、領域を横断することの大切さをあらためて感じる授業です。

──そのほか、とくにがんばって取り組んでいることがあったら教えてください。

少し前までは、NPO法人「多様性と境界に関する対話と表現の研究所」の活動に関わっていました。音楽に限らず、多様な人々が関わる実践の現場を調査したり、自分たちでもイベントやプロジェクトを企画したり、そこで得られた知見を文章にまとめて冊子をつくったりしていました。
最近は、音や音楽を介した相互行為に関する理論の勉強に力を注いでいます。とくに、音を介した相互行為の「枠」がどのように形づくられ変容していくのかということに関心があり、音楽学、美学、人類学、社会学、哲学、言語学など、さまざまな分野を横断しつつ、いろいろな文献を読んでいるところです。
あとは、千住に集まる音楽仲間たちがやっている「千住ちんどん」というバンドで、パーカッションを担当していたりもします。世界中のありとあらゆる音楽をチンドン屋さん風に再解釈しつつ、東東京エリアの商店街を中心にいろいろなお祭りやイベントに出没して、地元の人々との音楽を通じた関わり方を探っています。演奏することは好きですし、研究にもフィードバックできると思っているので、今後も続けていきたいと思っています。

──将来はどんな進路に進みたいですか? とくにやってみたいことについて聞かせてください。

進路に関しては、ちょうどすごく悩んでいるところなのですが、今のところ、博士課程に進学したいと思っています。理論と実践を行き来しつつ、日本の事例だけではなく海外の事例も視野に入れて、多様な人々が集う音楽実践の場では何が起こっているのか、そしてそれはどういう意味を持つのかについて、より広く深く研究して新しい理論を構築したいと考えているからです。
将来は、どこかの大学に研究職として籍を置きつつ、学内・学外を問わず軽やかにいろいろな企画・運営・演奏をやっていきたいと考えています。このご時世なので、厳しい道のりだとは思いますが……。
近い将来、とくにやってみたいことは、東南アジアの方々と一緒に音楽で何かおもしろい企画を行うことです。そのためにも、今は勉強や研究や実践を続けつつ、いろいろなアイディアを自分の中に溜め込んでおきたいと思っています。

音楽環境創造科主催の「千住Art Path 2016」(東京藝術大学千住キャンパス)にて開催された、蓮沼執太と学生たちによるライヴ・セッションでの演奏風景 2016年12月