In Depth

Special Lecture
特別講義

白川昌生
「記憶と美術館──彫刻とモニュメントをめぐって」

2017/6/19

2017年5月16日開催

会場=東京藝術大学 上野キャンパス 美術学部 中央棟第2講義室

国際芸術創造研究科アートプロデュース専攻では、「アートプロデュース概論」(担当:毛利嘉孝教授)のゲスト講師として、美術作家の白川昌生氏をお迎えして、「記憶と美術館──彫刻とモニュメントをめぐって」と題し、特別講義を開催しました。
講義は、氏が2002年頃から取り組んでいる歴史的記念碑をモチーフとした巨大な彫刻作品シリーズの話を中心に、「記憶と美術館」、「彫刻とモニュメント」の問題を掘り下げ、会場からの質疑応答も交えて進行しました。
たとえば、2015年に表参道の画廊で発表された作品では、白川氏は、長崎の原子爆弾投下の中心地に設置されている記念碑を取り上げています。黒の御影石でできた二等辺三角形のモニュメントは、もともと建築家によって設計され、地上500メートルの地点で原爆が爆発した事実を端的に示唆するものです。しかし、90年代後半、この記念碑を撤去して代わりに母子像を設置するよう市議会が決定。その報道を受けて、原爆投下の事実をまた「別の物語」、記憶に置き換えてしまうことを懸念した市民の間で抗議運動が起こり、裁判を経て、2000年に撤去の決議は撤回されました。しかし、その後、母子像の前に置かれる予定で制作されていたパーツがもとの記念碑の前に置かれることになり、モニュメントの持つ意味が変容したのも事実です。
記念碑は土地の記憶に深く関わるものですが、現物を別の場所に移動し展示することは不可能なので、白川氏は、それを持ち運び可能なかたちで、原寸とほぼ同じ大きさの布でできた「彫刻」として制作しています。長崎の例のほか、鳥取や群馬の第二次世界大戦に関わる記念碑をテーマにした作品についても、講義の中では同様に、詳述してくださいました。
また、この4月には、群馬県立近代美術館でのグループ展「群馬の美術2017──地域社会における現代美術の居場所」に出品予定だった、県立公園「群馬の森」に設置された太平洋戦争時の朝鮮人労働者追悼碑の形を布で再現した作品が、展覧会初日の早朝に撤去されることになりました。群馬県は、碑の設置許可の更新をめぐって市民団体と係争中であり、同館は「どちらか一方に偏るような展示は適当でない」と判断したと説明しています。この事件の経緯、そして白川氏の考えたことなど、会場からの質疑や意見も交えつつ、紹介されました。
「(出品中止になろうと)僕は望めば、どこでだって展示できますよ。無料で借りられるところも知っているし(笑)」。
「表現の自由の問題もあるけれども、むしろ、今の日本の美術館における構造的な問題があると思う。(現状)学芸員に権限があまりに与えられていない。美術館の問題として、こういう展示をやるのだという主張が(広く)認められ、近代の中でできた美術館という制度の持つ思想を、もっと重視していかなければならない」。
「公共の彫刻のあり方とはなんなのか? 時代が変わり、政権が変わると、撤去されるという側面がある。公共彫刻は、もちろん県や市が関わるのだけれど、まさにその県や市が公共彫刻をなくしてしまう。公共モニュメントに関わる問題を考えるきっかけになればと思い、制作している」。
今回の講義の動画を、同時代のアートに関わるさまざまな人々が番組の内容や構成を手がけるメディアが必要だという考えのもと、2011年に創始されたアート専門のインターネット放送局「comos-tv」が撮影・配信しています。下記よりごらんください。
comos-tv
http://comos-tv.com/archives/1003

文=川出絵里[東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科助教]

Special Lecture: 白川昌生
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Profile
白川昌生 Yoshio SHIRAKAWA
美術作家。1948年北九州戸畑生まれ。国立デュッセルドルフ美術大学卒業(マイスター)。1970年代にフランスおよびドイツで哲学と美術を学ぶ。83年に帰国し、93年に美術活動団体「場所・群馬」を創設。主な展覧会として「群馬の美術2017-地域社会における現代美術の居場所」(群馬県立近代美術館、2017)、「あいちトリエンナーレ2016」、「白川昌生 ダダ、ダダ、ダ 地域に生きる想像」(アーツ前橋、2014)、「フィールドキャラバン計画」(群馬県立近代美術館、2007)など。主な著書として『美術・記憶・生』(2007)、『美術館・動物園・精神科施設』(2010)、『西洋美術史を解体する』(2011、いずれも水声社)、共著に『彫刻の問題』(金井直、小田原のどかとの編著、トポフィル)など。