Skip to content

In Depth

Special Lecture Report

川出絵里
ニコラ・ブリオー講義アーカイヴ
──本専攻における一連の授業について、そして特別講演会「グローバル時代の芸術文化概論:21世紀の関係性のランドスケープ:人間的そして非人間的な領域の狭間におけるアート」記録動画のリリースにあたって

東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科アートプロデュース専攻主催特別授業

2018年1月5日〜10日開催
会場=東京藝術大学 上野キャンパス 各所

京藝術大学大学院国際芸術創造研究科アートプロデュース専攻では、このたび、2018年1月5日から10日まで6日間にわたり、パリとモンペリエを拠点に活躍するキュレーターでライターのニコラ・ブリオー氏をゲスト教授としてお迎えし、一般公開の特別講演会「21世紀の関係性のランドスケープ:人間的そして非人間的な領域の狭間におけるアート(Relational Landscape in the 21st Century: Art between Human and Non-human Spheres)」、英語による特別講義「Art and Culture in the Global Age: Relational Aesthetics and Time(グローバル時代の芸術文化概論:関係性の美学と時間)」、そして長谷川祐子教授の「アートプロデュース演習」授業として、「On the “Exform”(「エクスフォーム」をめぐって)」および「On Exhibition-making(展覧会キュレーションについて)」というふたつのテーマのもと、英語によるレクチャーとディスカッション・セッション全2回を開催しました。また、氏の来日に先立ちプレ授業の一環として、星野太氏(美学/表象文化論)による一般公開特別講義もあわせて開講。「トラフィック Traffic」展(CAPC/ボルドー現代アート・センター、1996年)から台北ビエンナーレ「大いなる加速 The Great Acceleration」展(台北市立美術館、2014年)までを中心に、ブリオー氏がキュレーションを手がけた主要な展覧会を概観し、同時に、氏による理論的著作を検討。「思想家としてのキュレーター」とも呼びうるブリオー氏の仕事の概要を再検証いただきました。

*

リオー氏は、1980年代後半、20代前半の若さで活動を開始。現在まで、国際的なコンテンポラリー・アートのキュレーションとそのひとつの理論的展開を先導し、現代アートの歴史においてきわめて重要な多数の展覧会と著作を送り出してきた存在と言うべきでしょう。1995年には「関係性の美学 “Esthétique relationnelle / Relational Aesthetics”」という言葉を、同時代のある種のアート動向の特異性を表現するものとして創案。のちに同名の著書を刊行。また、2009年に企画した「オルターモダン(別の近代/現代)  Altermodern」展のマニフェストにおいては、グローバリゼーションの進展を背景に進む文化の標準化と大量生産化、商業主義の蔓延への「ひとつの抵抗」としてのアートの可能性を提言。混交しクレオール化の進む多様な文化とそのフォーマットを媒介する「翻訳」や「ノマディズム(放浪者の態度・精神)」のダイナミズムについて語りました。これらの言葉や思索は広く世界的に普及して大きな衝撃と影響をもたらし、現代アートをめぐるさまざまな新たな解釈や議論の展開を創出する重要な契機となりました。並行して、1999年から2006 年までは、パリの現代アート・スペース「パレ・ド・トーキョー Palais de Tokyo」の設立者兼初代共同ディレクターを務め、その後、同地の国立高等美術学校学長に就任、現在は2019年に開館予定の美術館を含む複合アート施設「MoCo – Montpellier Contemporain(モコ:モンペリエ・コンテンポラン)」のディレクターとしても活躍しています。

リオー氏による本専攻での一連の講義のなかでも、日英通訳つきで開催された特別講演会「21世紀の関係性のランドスケープ」は、とりわけ、初期の思索から発展・成熟し、近年の著書や展覧会キュレーションにおいて新たな関心や問題意識をもって展開されている分析と議論をさらに明確に更新するような内容のレクチャーとなりました。「人新世(アントロポセン)」の時代、後期資本主義と進展しつづけるグローバリゼーションの時代における、今日の社会的・生態学的・科学人類学的そして経済的・政治的・文化的な状況に対する分析・解釈に始まり、私たちの生きるこのような同時代の世界状況に反応し、それをリ・アクティヴェイト(再活性化)させるような作品を生み出しているアーティストたち——ガブリエル・オロスコ、フランシス・アリス、マーク・レッキー、ピエール・ユイグ——の仕事を紹介し再解釈する試みとなりました。

*

のご厚意により、2018年1月8日(月・祝)に、本学上野キャンパス美術学部内中央棟第1講義室にて開催された本講演会(レクチャー本編およびオーディエンスの方々とモデレーターを務めた長谷川教授との質疑応答を含む全編)の記録動画を、以下にリリースします。
最後に、当日、本講演にご来場くださったみなさまに御礼申し上げるとともに、会場キャパシティの限界から、本会場およびライヴ動画プロジェクションを行ったサブ会場、いずれにもご入場いただけなかったみなさまにお詫び申し上げます。この記録動画が、多くの方々の芸術的・知的な関心事の探究に有益なものをもたらすことを、本専攻教員一同願い、ここに公開します。

> Click on the image to play the movie.

ニコラ・ブリオー「21世紀の関係性のランドスケープ:人間的そして非人間的領域の狭間におけるアート」記録動画 2018年1月8日、東京藝術大学上野キャンパス美術学部中央棟第1講義室にて開催 Video: Shu Nakagawa

*ブリオー氏の理論と実践に関する参考テキストおよびウェブリンク集も、以下のページよりごらんいただけます。http://ga-beta.geidai.ac.jp/2017/12/25/bourriaud/

*星野先生によるプレ授業で配布された日本語資料も以下のウェブサイトにて公開されています。
https://www.academia.edu/35600343/Introduction_Nicolas_Bourriaud_in_Japanese_

写真=中川周、庄子渉

文=川出絵里[東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科アートプロデュース専攻助教]

SPECIAL GUEST LECTURER
ニコラ・ブリオー Nicolas BOURRIAUD
キュレーター/ライター。1965年生まれ。現在、「ラ・パナセ」アート・センター、「モンペリエ国立高等美術学校(ESBAMA)」、そして2019年に開館予定の「MoCoミュージアム」を擁する、複合アート施設「MoCo – Montpellier Contemporain(モコ – モンペリエ・コンテンポラン)」ディレクター。パレ・ド・トーキョー(パリ)創設者・初代共同ディレクター(1999〜2006年)、ヴィクトル・ピンチュック財団(キエフ)創設顧問(2003〜2007年)、IUAVヴェネツィア建築大学教授(2006〜2007年)、テイト・ブリテン(ロンドン)グルベンキアン現代アート・キュレーター(2007年、2010年)を経て、2010年、フランス文化省学術部門長官に就任し、翌11年より15年まで、パリ国立高等美術学校学長を兼任。同15年より現職。
インディペンデント・キュレーターとして企画した主な国際展に、ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展フランス館共同キュレーター(1990年)、同展「アペルト」部門共同キュレーター(1993年)、「トラフィック」展(CAPC/ボルドー現代アート・センター、ボルドー、1996年)、「エストラートス 層雲」展(ムルシア美術館、スペイン、2008年)、「オルターモダン:テイト・トリエンナーレ2009」展(テイト・ブリテン、ロンドン、2009年)、「ウィリクタ:メキシカン・タイム・スリップ」展(ミュゼオ・エスパシオ現代美術館、アグアスカリエンテス、メキシコ、2016〜17年)、主なビエンナーレに、2005年リヨン・ビエンナーレ、2005年・2007年モスクワ・ビエンナーレ(ローサ・マルティネス、ダニエル・バーンバウム、ヨーゼフ・バックシュタイン、ハンス=ウルリッヒ・オブリスト、イアラ・ブーブノーヴァとの共同キュレーション)、2014年台北ビエンナーレ「大いなる加速」展(台北市立美術館)、2015年リトアニア・カウナス・ビエンナーレ「糸」展など。
主な著書に、Esthétique relationnelle / Relational Aesthetics (French Ed. 1998; English Ed. 2002), Postproduction (2002), The Radicant (2009), The Exform (2015)など。そのうちのいくつかは20ヶ国語もの言語に翻訳され世界各地で読まれている。

MODERATOR:
長谷川祐子 Yuko HASEGAWA
東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授、東京都現代美術館参事

企画タイトル:特別講演会「グローバル時代の芸術文化概論:ニコラ・ブリオー「21世紀の関係性のランドスケープ:人間的そして非人間的領域の狭間におけるアート」
主催:東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科アートプロデュース専攻
認定:東京藝術大学130周年(公式プログラム)

Photo: Wataru SHOJI
Photo: Eiko HATTORI
Photo: ERi KAWADE
Back To Top