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ASAP2025 :

台東フィールドトリップ レポート

アーティスト・イン・レジデンスMakotaay ⽣態藝術村

 

今年度の「台東アートリサーチ」「国立台北芸術大学ならびに国立台北教育大学との交流」では、GAから9名の修士学生と1名の研究生、そして助手・助教も含め4名の教員の合計14名が参加し、主に国立台北芸術大学と国立台北教育大学の2校との交流プログラムを実施した。

訪問ルートは国立台北芸術大学領芸術領域横断研究科教授の黃建宏(HUANG Chien-Hung)とCHANG Wei-Lunに調整していただき、台東の東海岸に点在する台湾原住民(アミ族とプユマ族)のコミュニティをバスで移動した。GAが台湾原住民のアーティストを訪問するのは、2023年に西南部のパイワン族とルカイ族のコミュニティに続いて2回目である。

 

 

9月26日(金):

東海岸の二つの山脈に挟まれ美しい田園が広がる地域で池上穀倉藝術館や池上蔣勳書房など日本統治時代の建築物が使用された文化施設を視察したのち、台東美術館で2023年のASAPで交流があったアーティスト張徐展(Zhang Xu Zhan)の展覧会を観覧。そのあと、都蘭新東糖廠⽂化園區へと移動し、アーティストの一人Hana Keliw(哈拿・葛琉)のスタジオを訪問した。

 

 

日本統治時代の建築物を活用した池上蔣勳書房

 

27日(土):

台湾原住民コミュニティに位置するアーティスト・イン・レジデンスMakotaay ⽣態藝術村を訪問し、アーティストのIyo Kacaw(伊祐・噶照)とキュレーターのNakaw Putun(那⾼・⼘沌)からレジデンスをはじめとする事業の説明を聞き、屋外に設置された作品を案内していただいた。その後海沿いのカフェに移動し、二人は私たちの訪問直前に襲った台風の被害が大きかった地域で復興作業の支援に向かう前に、互いの無事を祈る歌を唄ってくれた。私たちは当地の料理を食し、しばらく二日間で見てきた自然と共に生きることでつくられてきた文化について意見交換をおこなった。

 

 

アーティストインレジデンスMakotaay ⽣態藝術村の説明をするIyo Kacaw(伊祐・噶照)

 

28日(日):

なだらかな傾斜面の畑の道を進み、アーティストであるRao Aichin(饒愛琴)とIming Mavaliw(伊命・瑪法琉)のスタジオ、饒愛琴伊命⼯作室を訪問した。自ら手がけたというスタジオや住居などで二人の作品や制作環境を拝見したのち、屋外作品で構成されたImingの個展を鑑賞した。その後、プユマ族の伝統的な料理を食べられるお店でお昼ご飯を食べ、国立台湾史前文化博物館(National Museum of Prehistory)を見学した。

 

 

饒愛琴伊命⼯作室を訪問する

 

台東では3つの先住民(アミ族)のアーティストのスタジオ兼自宅を訪れた。それぞれ作っている作品や作風は異なるものの、暮らし方や言葉や作品のコンセプトに垣間見える、自然への考え方に共通点があった。家は流木でできており、日本や台北の家屋に比べて壁が少ないため、外の風を感じる作りになっている。代々の暮らしを守るため、電気もあまり使用しない。また直前に台東に台風が上陸したこともありそのことに関する質問が出たが、特に海の近くに住むアーティスト(Mr.Iyo)が自然に対して畏怖や恐怖という感情はなく、流木という大きなギフトをくれて敬意(Respect)しかないという話しているのが印象的であった。(服部亜里沙)

 

 

Iming Mavaliw(伊命・瑪法琉)の制作したナイフの鞘

 

台湾でアートシーンを視察して、災害の多さなど日本との共通点がありつつ、よりアート作品が自然や生活と密接に関わって作られていることがわかりました。原住民のアーティストと交流することで、今まで詳しくなかった日本の原住民の文化にも関心を持ちました。(杉本温子)

一口に先住民族といっても、その歴史的系譜、自然との関係性、集団の構成は多種多様である。それらの詳細に無知であった自分を恥じるとともに、国内における先住民族への理解の必要性、さらに日本が戦中に「日本」と数えさせていた地域における民族のあり方について学ぶ貴重な機会となったことに深く感謝している。(田村香奈)

 

 

Makotaay ⽣態藝術村のレジデンスプログラムで制作された、屋外設置作品を巡るツアー

 

特に9月27日に訪問した生態藝術村では、波のリズムの話があり、そして船を制作したこと、さらに台風の多い地域で多く流れてくる流木によって作品が作られていることは、生活と制作の繋がりを強く感じさせるものであり、なおかつそれが作品であるかどうかといったような表現の名づけをアーティスト自身が自ら行なっている様子が印象的であった。プロジェクトなどのモノではない何かを記録するあるいは遺すことを考えると、ついドキュメントなどといった文字媒体を思いつきがちだが、台東でのアーティストたちの姿勢は、生活やその人自身がかたちのない物事を伝えるメディアになるということに気づかせてくれるものだった。(稲垣佳葉)

 

自分が語っている物語が、これまで自分の中にあった物語と矛盾し、あるいはそれを置き換えていくのを聞いたとき、とても動揺しました。しかしその感情は、すぐに通訳の緊張感と時間の制約にかき消されました。中間点を探す余裕はなく、私は自分が聞くだけであればそこまで真剣に受け止めなかったかもしれない言葉を口にしていました。たとえば、ハナさんが自分の中国名を捨て、祖母の日本名を選んだという話です。彼女にとって重要なのは、中国の植民地主義の影響を取り除くことでした。

言葉として語られる物語だけでなく、私たちは台東美術館で開催されていた「老鼠、白蟻、兔子狐狸鼠鹿與蒼蠅的生靈馬戲——張徐展個展」*も訪れました。その展示は言葉を超えたものでした。アニメーションの一つひとつの動作は膨大な時間と労力によって実現されており、地上の「マイナー」な生き物たちすべての物語が生き生きと描かれていました。(リ・アンチー)

 

 

台東美術館で張徐展(Zhang Xu Zhan)の展覧会を観覧する

 

台東美術館で見学した張除展氏の個展は、特に印象的であった。新聞などの紙を材料にしたウサギやキツネやネズミが出てくるストップモーションのアニメが、撮影に使われた動物たちの操り人形と共に展示され、着ぐるみを着て人間が虫に扮した映像が、まるで映像の中にいるように土の中に設置されたモニターに流れる。映像はゆるやかな物語であったが、ほのぼのとした見た目に反して動物たちの「食う・食われる」の関係が誠実に描かれていた。キラキラとした露を残しながら、生命を他に分け与えるように消えていく生き物を、同情ではない視線で淡々と、畏れを持って見つめる。張氏の作品を見ることで、都会に暮らしていると簡単には得られない視線のありようと同化することができたように感じた。(畠山栞那)

 

3日間のこうしたフィールドワークの最終日に台東の先史博物館に行く機会を得たが、その時に3日の間に見た作品の数々が展示されている光景に立ち会った。美術館、博物館という場所の中に置かれたその作品群の姿は数日前にみた、作り手の生活の延長にあったものとは様子が異なるように見えた。本来あるはずの場所から遠く離れたところに辿り着いた作品たちは少なからず変容しており、そのように見える理由を今後も探っていきたいと思った。これらの作品が土地を離れ、都市部の美術館に展示される過程を考えることは、美術館の存在意義を改めて問い直す契機となった。展示空間で作品を観るとき、その背後にある人々のまなざしや生活のぬくもりを忘れてはならないと強く感じた。(河田珠希)

 

 

アーティスト古睖・久古(LIN YU-TA)のレクチャーの様子

 

29日(月):

国立台北芸術大学で、同校の学生とTEA+のプログラムで滞在中のアーティスト竹内公太とともに、アミ族のアーティスト古睖・久古(LIN YU-TA)のレクチャーを受けたのち、学生それぞれの関心に基づいて台東での体験を振り返る発表を行うなど、両大学の学生の交流を行なった。

 

 

Nanhai galleryで国立台北教育大学の学生とワークショップを行う

 

30日(日):

国立台北教育大学CCSCA(MA in Critical and Curatorial Studies of Contemporary Art)の学生が主催する展覧会をNanhai galleryで見学したのち、CCSCAの学生との混合グループに分かれ、展示スペースを活用するための企画を考えるワークショップを実施し、発表を行なった。

 

 

ワークショップでの発表の様子

 

現地大学生とのディスカッションでは、学生たちが非常に積極的であり、さまざまな国からの留学生を交えて自由に意見を交わす姿勢が印象的だった。異なる文化的背景を持つ学生同士が互いの考えを率直に伝え合い、それを柔軟に受け入れる関係性は、自分の中にも新たな視点をもたらした。(久保木千草)

 

台北芸術大学では、フランスでアーティスト・イン・レジデンスを経験したアーティストによる講義を受講した。ミニマルでコンセプチュアルな作品がどのような思考過程を経て生み出されているのかを詳しく知ることができた。そのアーティストは、ものごとの「可能性(possibility)」に対して深い洞察を持ち、視点の変化によって世界の見え方が変わる瞬間を「脆弱性」と定義していた。この「脆弱性」への関心が作品制作の原点になっていることを知り、アーティストの内面と創作の結びつきに強く惹かれた。こうした言葉に直接触れることで、アーティストや展示の背景をより深く理解したいという気持ちが高まり、キュレーションの学習意欲がいっそう強まった。(奥田実花)

 

今回のプログラムでは台湾原住民のコミュニティを中心としたフィールドワークを実施し、作品を観覧するだけでなく、スタジオ訪問やアーティストとの交流によって、土地や生活と深く結びつくことで作品が生み出されていくことを知ることができた。またアートが原住民の権利回復において担った役割にも触れ、約50年間に及ぶ日本の支配をはじめ多くの侵略を受けた歴史と芸術実践の社会的役割を考える契機となったのではないかと考えられる。

国立台北芸術大学と国立台北教育大学での交流では、訪問先の学生と本学の学生が活発に意見交換をする姿が見られた。国立台北芸術大学とはTEA+(Tokyo University of the Arts /Taipei National University of the Arts Exchange Artists+ Program)のプログラムで相互にアーティストを派遣するレジデンス事業も展開しており、派遣中の作家と来日予定の作家とも親交を深めることができ、参加者各自にとって今後の研究や芸術実践に続く交流を数多く実施することができた。

 

 

 

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