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研究科長挨拶

ごあいさつ

 

大学院国際芸術創造研究科(GA)の修士課程が2016年に設立されてから9年が経ちました。今年で設立10年目を迎えます。設立にあたって中心的な役割を果たされた熊倉純子先生が2025年3月まで研究科長を務めたGAには、国内外から個性的な学生が集まり、アート・マネジメント、キュレーション、そして、リサーチのそれぞれの領域で、芸術や文化、メディアや教育に関わる人材を輩出してきました。2018年に博士課程を設置してからは、さらに専門性の高い人材を育成し、次世代を担う研究者、実践者として国内外で活躍しています。

 

また教育だけではなく、グローバル化するアートや文化の実践的なプロジェクト、地域に根ざしたアート・プロジェクト、そして新しい時代に対応した理論研究や調査など実践的な研究プロジェクトも大きな成果を挙げてきました。

 

その一方で21世紀が始まってから四半世紀が経ち、私たちの世界の状況は大きく変わりつつあります。

 

2016年設立当初には、研究科の名前である「global arts」という言葉は、一定の批判はあったものの、全体としては肯定的で楽観的なconnotationを含んでいました。それは、1989年のベルリンの壁の崩壊をきっかけとした東西冷戦構造の崩壊後の新しいグローバリゼーションの時代の到来に対応していたのです。そこでは国境を超えたトランスナショナルな人、モノ、カネ、あるいは文化や芸術の移動が加速度的な進む新しい未来が期待されていました。インターネットを代表されるデジタル・メディア・テクノロジーの発達とグローバルな交通網の整備は、新しいグローバルな文化—グローバルなアーツを創造すると考えられたのです。

 

けれども、そうした楽観的なグローバル化の時代が終焉しつつあります。インターネットは統合ではなく分裂をもたらしました。インターネットは、フェイク・ニュース、ヘイトスピーチが溢れる一方で、冷酷な資本主義の原理によって支配されているかのようです。コロナ禍は、グローバル化の副作用を自覚させるのに十分な役割を果たしました。ウクライナやパレスチナに代表される紛争や戦争の拡大、世界中で広がる権威主義国家、排外主義的な人種主義、原理主義、セクシズム、貧困問題、あるいは環境問題や自然災害の拡大は、近代的な民主主義を根幹から脅かしています。

 

文化や芸術もこうした動向から逃れることはできません。これまでのグローバル化を再検証し、批判的かつ実践的にもう一つのグローバル・アーツを想像することは急務です。むしろ今や積極的にこうした現在の危機に立ち向かうことがアートの役割として期待されています。アートは、さまざまな社会問題に取り組み、何らかの形で対応策を示すという重要な使命を担うようになっているのです。

 

未来のアートはどのようなかたちをしているのでしょうか。

それはまだはっきりとしていませんが、おそらく20世紀に哲学や歴史学、文学など人文学が果たしてきた役割を、視覚や聴覚、経験や調査などを複合的に用いて、担っていく新しい領域横断的なエステティックな実践になるでしょう。それは、私たちがこれまで文化や芸術と呼んでいた営みとはずいぶんと変わったかたちをしているかもしれません。

 

この新しい世界を一緒に探求し、対話を重ねながら、文化芸術を通じて変革していく仲間との出会いを私たちは楽しみにしています。

 

 

大学院国際芸術創造研究科研究科長

毛利嘉孝

2025年4月1日

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