Skip to content

「都市の臓器とAI」研究会:
第5回「生命の軌跡をマッピングする──高次元時空におけるAIと次世代総合診療の創造性」(報告者:矢野裕一朗)

 

研究会のご案内
日時:2026年1月7日(水)18:30–20:30
会場:東京藝術大学 音楽学部 上野キャンパス 国際交流棟4F GA講義室(MAPのNo.19の建物です
※対面参加は定員30名(要申込)/アーカイブ配信あり(要申込)
報告者:矢野裕一朗(順天堂大学医学部 総合診療科学講座 /AIインキュベーションファーム 教授/センター長/東京科学大学M&Dデータプラットフォーム推進室 特任教授)
ファシリテーター:石田康平(研究者/クリエイター/デザイナー)
コメンテーター:
長谷川愛(アーティスト)

「都市の臓器とAI」研究会(全6回)
本研究会は、2025年7月から2026年1月にかけて全6回にわたり開催いたします。
第5回では、矢野裕一朗氏をお迎えし、「生命の軌跡をマッピングする──高次元時空におけるAIと次世代総合診療の創造性」と題してご報告いただきます。

 

第5回 「生命の軌跡をマッピングする──高次元時空におけるAIと次世代総合診療の創造性」
概要
【背景と目的:統計的複製から生命のマッピングへ】
生成AIの普及は、医療における正解を安価なコモディティへと変貌させとうとしている。現在のAIは、膨大な健康情報をトークンとして扱い、高次元の埋め込み空間(Embedding space)へと写像する複生技術である 。AIは疾病の相関関係を統計的に可視化し、未来の軌跡を予測する精度において人間を凌駕しつつあるが、それはあらかじめ定義されたアルゴリズムの枠組み、いわば定型化された知性による平均解の提示に過ぎない 。本講演では、AIによる高次元マッピング技術の先にある深さの欠如を問い直し、医師が担うべき本質的な価値と、それを体現する総合診療(全身を俯瞰する全人的診療)の役割を、最新のAI論理に加え、日本独自の文化や歴史的背景を踏まえて論じる。

【AIの限界と不立文字の身体知:マッピングされない時空】最新のトランスフォーマー・モデルは、年齢や診断歴を時空上の座標として捉え、1,000以上の疾患軌跡を同時にシミュレートすることを可能にした(Nature. 2025 ;647:248) 。しかし、AIが断片的なデータの統合に長ける一方で、日本人が古来、不立文字と呼んできた、言語やデータに還元しきれない身体知の領域――すなわち患者の微細な表情、気配、対面時の「間」といった非構造化データの解釈は依然として困難である。AIが統計的な平均を模倣する定型化された知性に留まる一方で、臨床医の直感は、それらの流動的な情報を全身で受け止める、いわば臓器なき知性(既存の枠組みに縛られない知性)に近い。 例えば生活習慣病の指導において、AIが高次元空間から導き出した統計的最適解を提示しても、患者がそれを実行できない背景には、数値化できない日常生活の複雑なコンテキストが存在する。生活環境の制約や個人の機微を医師が身体的に感じ取り、言葉の背後にある生きた状況を把握することこそが、不立文字の伝統を医療に実装する総合診療の真髄である。

【総合診療の再定義:創造的翻訳としてのマッピング】 これからの総合診療医は、単なる医療システムのゲートキーパーではない。AIという巨大なプラットフォームが提示する統計的な点を、個々の患者の人生という固有の時空へと創造的に翻訳(マッピング)するアートの側面も求められる。AIが予測する未来の確率論的な点を、患者の日常生活の機微に基づき、血の通った線へと織り込み、心に響く物語(ナラティブ)へと昇華させるプロセス。この時空を統合する創造的プロセスこそが、総合診療の本質である。

【結語:アートとしての医療への回帰】 デジタルの極致であるAIが浸透するほど、対極にあるアナログ的な介入の価値は高まる。AIに高次元の機能的なマッピングを任せ、人間は臓器なき知性を研ぎ澄まし、意味の深層へと潜る。そのとき初めて、医療は単なる情報処理から、全人的な癒やしという表現へと回帰する。第4次産業革命の只中で、テクノロジーと身体性が交差する地点に、総合診療マインドの新たな地平を提言したい。

 

報告者プロフィール
矢野裕一朗(やの・ゆいちろう)
順天堂大学医学部総合診療科学講座 教授 。ほか、同大学のAIインキュベーションファームでセンター長、東京科学大学M&Dデータプラットフォーム推進室の特任教授も務める。2002年に自治医科大学を卒業し 、米国各地の大学(シカゴ大学、ノースウェスタン大学、デューク大学など)で研究・教育に従事した経歴を持つ 。現在は、デューク大学の客員教授 、スタンフォード大学のGlobal Facultyなども兼任。専門分野は予防医学、データサイエンス、医療DX、AIなど。これまでにJAMA、NEJM、Lancetといった学術誌を含め、250報以上の論文を発表 。その業績に対し、日本高血圧学会学術賞 、米国心臓協会(AHA)の学術賞 、John Laragh Research Award など、数多くの賞を授与している。また、日本医学会連合の医療DX推進委員会委員 や日本内科学会のAI委員会委員 を担当し、国内の医療デジタル化を牽引。メディアを通じた活動では、NHK「あしたが変わるトリセツショー」への出演 のほか、New York Times やForbes JAPAN などの国内外の有力メディアでもその活動が紹介されている。

 

参加申込フォーム:https://forms.gle/3DbkmmszTRPxxoWy6

申込受付は 1月6日(火)12:00 まで。

※対面参加は先着30名(定員に達し次第締切)
※アーカイブ配信あり。対面参加の有無にかかわらず、どなたでもご視聴いただけます。ご希望の方は、上記「参加申し込みフォーム」よりお申し込みください。

お問い合わせ:東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教員室(リサーチ領域)
ga-research@ml.geidai.ac.jp

 

主催:「都市の臓器とAI」研究会
東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科 清水知子研究室・毛利嘉孝研究室
共催:大丸有SDGs ACT 5実行委員会

Back To Top