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シンポジウム:ジャック・ハルバスタム
「かつて、あるクィアな時間に/Once Upon a Queer Time

 

2005年に刊行されたジャック・ハルバスタム氏(コロンビア大学デイヴィッド・ファインソン人文学教授)の著書In A Queer Time and Place: Transgender Bodies, Subcultural Lives (NYU Press, 2005)は、クィア・スタディーズにおける時間と空間の概念を大胆に再編成し、トランスジェンダーの身体、サブカルチャーの実践、そして規範的な生/性の外側に広がるオルタナティブな時間性を描き出した画期的著作である。それから20年、世界は急速に変容した。資本主義は加速度的に拡張し、監視インフラとデジタルプラットフォームが生活を細部まで規定する一方、トランプ政権以降のアメリカをはじめ、各地で反トランス的言説と排除の政治が再燃している。この激動の時代に、私たちは「クィアな時間」「クィアな空間」をいかに思考しうるのだろうか。
本シンポジウムでは、ハルバスタム氏が自身の古典的著作へと立ち戻り、そこに潜在していた問い──規範から逸脱する時間の経験、共同性の編成、トランス性の表象と政治、さらには「大都市規範性(メトロノーマティヴィティ)」や「クィアな時間性」といった概念──を、現在の状況のなかで改めて読み直すものである。今回の講演では、本書が開いた未完の問題系を再起動し、今日の危機と可能性を射程に入れながら再考していく。
また、『クィアな時間と場所で——トランスジェンダーの身体とサブカルチャーの生』(花伝社、2025年12月刊行予定(https://www.kadensha.net/book/b10153044.html))の日本語訳刊行を記念し、訳者の菅野優香氏、井上絵美子氏、羽生有希氏を迎えて、翻訳プロセスを通じて浮かび上がった理論的課題、翻訳言語の政治性、そして日本におけるクィア研究の現在地をめぐって議論を掘り下げていく。
支配的な文化規範の外側で、別様の時間や空間をいかに立ち上げ、生を組み立てうるのか──あるいは、その断片的な生の実践をどのように可視化し、共有し、理論化することができるのか。本シンポジウムでは、この20年の社会・政治・文化的変動を背景に、クィア理論を再定位し、現在の危機と創造が交錯する地点を見据えながら、新たな認識論とその可能性をともに探求する機会としたい。

 

日時 2025年12月6日(土)14:00〜17:00(13:30開場)
会場東京藝術大学 上野キャンパス 音楽学部 5-109(MAP No.27)
料金:無料 ※要予約
定員:200名

講師:ジャック・ハルバスタム(コロンビア大学デイヴィッド・ファインソン人文学教授)
討議者:菅野優香(同志社大学大学院教授)、井上絵美子(一橋大学大学院言語社会研究科博士課程在籍)、羽生有希(共立女子大学、中央大学ほか非常勤講師、国際基督教大学ジェンダー研究センター研究員)
通訳:田中ジョン直人(東京藝術大学教育研究助手)
司会:清水知子(東京藝術大学教授)

言語:英語・日本語(逐次通訳あり)
主催:東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科

予約フォーム:以下のお申込みフォームから事前予約をお願いいたします。
https://forms.gle/oWB8A6ANBjr5sJta8

お問い合わせ
東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教員室(リサーチ領域)
ga-research@ml.geidai.ac.jp

 

登壇者プロフィール 

ジャック・ハルバスタム
コロンビア大学デイヴィッド・ファインソン人文学教授。著作に Skin Shows: Gothic Horror and the Technology of Monsters(Duke University Press, 1995)、Female Masculinity(Duke University Press, 1998)、In A Queer Time and Place: Transgender Bodies, Subcultural Lives(NYU Press, 2005 、邦訳『クィアな時間と場所で——トランスジェンダーの身体とサブカルチャーの生』菅野優香、羽生有希、井上絵美子訳、花伝社)、The Queer Art of Failure(Duke University Press, 2011、邦訳『失敗のクィアアート——氾濫するアニメーション』藤本一勇訳、岩波書店)、Gaga Feminism: Sex, Gender, and the End of Normal(Beacon Press, 2012)、Trans: A Quick and Quirky Account of Gender Variance(University of California Press)、最新刊はWild Things: The Disorder of Desire(Duke University Press, 2020)。2018年、Places Journal 誌より、ジェンダー、セクシュアリティ、建築環境の関係性に関する革新的な公共学術研究に授与されるアーカス/プレイス賞受賞。現在、新著Anarchitecture After Everything: A Trans Manifestoを執筆中、2026年にMIT Pressから刊行予定。2022年アダム・ペンドルトンによる短編映画『So We Moved: A Portrait of Jack Halberstam』に主演、2024年グッゲンハイム・フェローに選出。

菅野優香
同志社大学大学院教授。著書に『クィア・シネマ 世界と時間に別の仕方で存在するために』(2023年)、『クィア・シネマ・スタディーズ』(編著、2021年)、共著にRoutledge Handbook of Japanese Cinema (Routledge, 2021)、The Japanese Cinema Book (2020)、『日活ロマンポルノ性の美学と政治学』(共著、水声社、2023年)、『クィア・スタディーズをひらく』晃洋書房 (2020年)など。翻訳にアン・ツヴェッコヴィッチ『感情のアーカイヴ――トラウマ、セクシュアリティ、レズビアンの公的文化』(監訳、2024年)がある。

羽生有希
共立女子大学、中央大学ほか非常勤講師。国際基督教大学ジェンダー研究センター研究員。専門はフェミニズム哲学、クィア理論。著作に「コロナ禍の解釈枠組――脅かされる生をめぐるフェミニズム・クィア理論からの試論」(『福音と世界』2020年12月号)など。主な翻訳はアンジェラ・チェン『ACE アセクシュアルから見たセックスと社会のこと』(左右社、2023年)エリザベス・ブレイク『最小の結婚』(久保田裕之監訳、白澤社、2019 年、第1章および第2章を担当)。

井上絵美子
一橋大学大学院言語社会研究科博士課程在籍。専門は近現代美術史、パフォーマンス史、フェミニズム・クィア理論。ニューヨーク市立大学ハンターカレッジ校に提出した田部光子についての修士論文で The Feminist Institute Research Award を受賞。著作に「【解 題】個人的なこと、集団的なこと、政治的なこと――執筆家/活動家としてのルーシー・リパード」『アートワーカーズ』(ジュリア・ブライアン=ウィルソン著、高橋沙也葉ほか訳、フィルムアート社、2024年)など。

田中ジョン直人
アーティスト、リサーチャー、翻訳家(日英)。東京芸術大学大学院助手、桐朋学園大学非常勤講師。米大学で国際農業開発と美術史を専攻後、メーカー勤務を経て、現在は東京芸術大学の取手キャンパスとその周辺の小文間地区を題材に、大学史とマクロな社会史・人類史の接続点というテーマへ、文献調査、発表や展示、アーカイブ構築といった手法で迫る。また国内外で芸術・農業分野のイベントや講義を中心に通訳・翻訳を手掛ける。

清水知子
東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授。専門は文化理論、メディア文化論。著書に『文化と暴力――揺曳するユニオンジャック』(月曜社)、『ディズニーと動物――王国の魔法をとく』(筑摩選書)、共訳にジュディス・バトラー『非暴力の力』『アセンブリー行為遂行性・複数性・政治』(青土社)、アントニオ・ネグリ+マイケル・ハート『叛逆』(NHK出版)、デイヴィッド・ライアン『9・11以後の監視』(明石書店)など。

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