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ラウンドテーブル ARTs×SDGsの可能性をめぐる対話と実践

「隅田川を舞台に展開するSDGsプロトタイピング

第一章:サーキュラー・ダイアローグ vol.2 食 Food cycle」レポート

2022年9月3日(土)

ファシリテーター:中山晴奈(フードデザイナー)

ゲスト:高橋仙人(仙人スパイス代表)、油井和徳(認定特定非営利活動法人山友会)、笹川みちる(NPO法人雨水市民の会)、辻純一(株式会社アイジャスト)、伊藤一城(Spice Cafe)、牛久光次(たもんじ交流農園/NPO法人寺島・玉ノ井まちづくり協議会)

ディレクター:清宮陵一(NPO法人トッピングイースト理事長)

サウンドデザイン:小野龍一(音楽家)

プロデューサー:熊倉純子(東京藝術大学教授)

2030年までの達成に向けて設定された17のゴールと169のターゲットからなるSDGs。

ラウンドテーブルでは、2022年度、隅田川流域におけるSDGsの実践にあたり、重要な3つのカテゴリ(再生可能エネルギー、食、モビリティ)に取り組んでいる方々をゲストに招き、ゲストと参加者を交えたグループセッションを通して今後に向けた構想を練っています。

「vol.1 再生可能エネルギー Renewable energy」が新型コロナウイルス感染症拡大防止の影響で開催延期となったため「vol.2 食 Food cycle」が「第一章:サーキュラー・ダイアローグ」の幕あけを飾ることとなりました。

(1)6組のゲストと2組のスペシャルゲストが代わる代わる登壇して自身の取り組みを紹介した「プレゼンテーション」、(2)全参加者を3つのテーマごとのグループに分けて行った「グループセッション」、(3)全参加者がひとつの大きな円となって気づきや今後の期待を述べた「ラウンドテーブル」の3部構成で進められました。

食×アート×隅田川、「アート」が持つ「人を巻き込む力」・「食」が持つ「人をつなぐ力」が、隅田川流域でのSDGs実践にどのようにつながるのか

 食×アートから何を思い浮かべるでしょうか。(1)プレゼンテーションは、「食」が持つ「人をつなぐ力」・「アート」が持つ「人を巻き込む力」を生かしたいと考える清宮ディレクターとファシリテーター 中山さんの言葉からバトンを受けた6組のゲストの方が登壇されました。

 また事前告知はしませんでしたが、隅田川テラスの整備・管理を担う公益財団法人東京都公園協会の渡邉さん、東京都建設局河川部の大川原さんも参加可能となり、プレゼンテーションを行っていただきました。


テレビを見ている人たち

中程度の精度で自動的に生成された説明

テレビ画面の前に立っている人たち

低い精度で自動的に生成された説明

①高橋仙人さんは、インドネシアのジャングルで水辺の植物を研究していたはずが、いつしか胡椒の収穫から日本伝統の塩漬製法を生かした商品製造も行うようになりました。

高橋さんは、インドネシアで胡椒以外にもバタフライピーやレモングラスを育て、アイスティーなどの飲み物にし、楽しんでいるそうです。また夜に咲く水蓮の花も育て、和む時もあるとのこと。プレゼンテーションでは、日本でも5月から秋まで育てられる水辺の植物を隅田川流域で育ててみるのはどうかという提案をされました。

紫の花

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家の庭でバイクにまたがっている男性

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②油井和徳さんは、大学時代の授業がきっかけで、隅田川流域に暮らす路上生活者の方の支援を行う認定特定非営利活動法人山友会に所属するようになり、年間延べ3000人に炊き出しを行っています。

現在は整備され、一見きれいな風景が広がる隅田川流域も、10数年前はブルーテントが並び、路上生活者の方が多く暮らしていました。ブルーテントの数は一時よりはだいぶ減ったものの、全面的解決には至っていません。社会的孤立により生活問題と健康問題を抱える路上生活者の方へ、ラウンドテーブルは「食」を通してどのようなアプローチができるのでしょうか。

テレビ画面を見ている人たち

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川と街並み

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人, 屋内, テーブル, 座る が含まれている画像

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③世界の年間平均降水量の2倍もの雨が降る日本。墨田区は、海抜ゼロメートル地帯が広がっており、洪水被害も多かったため、防災の意識からいち早く雨水の活用に取り組むようになりました。笹川みちるさんは、墨田区を主な拠点に活動するNPO法人雨水市民の会に所属しています。雨水市民の会では「流せば洪水、貯めれば資源」の考えから、町中に雨水タンクを約760箇所設置・約2万6千トンを貯水しています。貯水だけでなく、活動周知の一環として雨の日だけ出現するアートで通行人を楽しませたり、降った雨を地産地消すべく野菜栽培や雨水ハイボールを作ったりと、精力的に活動に取り組んでいます。

歩道を歩いている人の足

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④辻純一さんは、アメリカで50年以上暮らしているなかで、James Beard・Jean-Louis Palladin・Alice Waters・Ruth Reichlの4人の活動を知り、「アメリカの改革は食から始まった」と考えるようになりました。そして食からの社会改革を目指し、発芽して1ヶ月も満たずに収穫でき、栄養価の高さからも注目されるマイクログリーンの育成普及に取り組んでいます。

人, 男, スーツ, 立つ が含まれている画像

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⑤公益財団法人東京都公園協会の渡邉陽一さんは、墨田区内のプラネタリウム解説員を経て、現職で隅田川や都立公園の賑わい創出に取り組んでいます。隅田川では、地域の方と連携した川沿いの花守(花壇整備)活動や企業と連携したコーヒースクール、地域プレイヤーと連携したマルシェ開催などを通して賑わい創出を行っています。

 ☆ 人, 屋外, 民衆, グループ が含まれている画像

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⑥両国にお住まいの東京都建設局河川部の大川原雄一郎さんは、江戸より続く文化を背景に、隅田川は、東京都の河川のなかでも利活用が進んでいると指摘されます。何もない水辺に、イスとテーブルを並べるだけで、人の賑わいが生まれる。ただのSPACEから人々が集うPLACEに変える活動は、アイデア次第でどんどん広がっていくことを紹介されていました。

⑦隅田川沿いで生まれ育った伊藤一城さんは、世界一周がしたいという動機だけで、3年半にわたり48か国を旅しました。世界を旅していくなかで、世界中のスパイスを使った料理店を地元に開こうと決心し、Spice Cafeを開店しました。伊藤さんは、Spice Cafe開店後も年に1ヶ月お店を休み、インドやスリランカのお店で現地の味を学ぶため、修行を続けています。インターネットが発達してもなお、やはり現地で学ぶ味は、鮮度があると話されます。伊藤さんは、アーティスト・イン・レジデンスに着想を得て、シェフ・イン・レジデンスと称し、1ヶ月現地に住み、地元の生産者との交流を深め、期間限定の料理店を開く活動も始めています。

 

⑧NPO法人寺島・玉ノ井まちづくり協議会の牛久光次さんは、イベントの企画運営を通して一時ではなく常時の交流を求めるようになり、たもんじ交流農園の活動を始めました。たもんじ交流農園では、江戸から続く伝統野菜・寺島なすの栽培だけでなく、車いすの方も野菜作りを楽しめる可動型プランター設置やホタルの幼虫育成など幅広い活動を行っています。たもんじ交流農園で栽培された寺島なすは、東向島駅前の居酒屋で浅漬けやきんぴらなどに調理され、提供されているそうです。

 

屋外, 建物, フェンス, 家 が含まれている画像

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家の庭に立っている人

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「食」が持つ「人をつなぐ力」を実感したグループセッション

(2)グループセッションでは、全参加者を「A 水辺×文化」・「B 個×地域」・「C 食×地域」の3つのテーマごとにグループに分け、今後の構想を練っていきました。

 熊倉教授・高橋さん・辻さん・大川原さんが参加した「A 水辺×文化」では、隅田川沿いで花守活動を行う参加者の方から、花ではなく食物を育てたい、食物のほうがより注目度が高まり、地域に活気が出るのではという声が挙がりました。現在、隅田川沿いの花壇スペースで食物を育てることは禁止されています。イギリス・トッドモーデンではじまった、まちの公共空間を「食べられる庭」に変えてしまうプロジェクト「Incredible Edible Todmorden」や、ニューヨークなどで地域住民が主体となって緑の空間を生み出す活動「コミュニティーガーデン」のように、地域の合意形成を得て、公共スペースで食物を育てるためにはどのような方法があるのかを模索しました。

清宮ディレクター・油井さん・伊藤さんが参加した「B 個×地域」では、外の世界・他の人の考えを知りたいという思いからラウンドテーブルに参加し、路上生活者の方の医療支援を経て、現在は不妊治療を研究している医学部の学生と油井さんの掛け合いが話題の中心になりました。実際に人と会うことを活動の原動力としているという医学生に対し、油井さんは特別な使命感を持たなくてもよいのではないか、活動を少しずつ持続させるために必要なことを行っていくだけでも十分であると述べられ、二人の対比が印象的な対話となりました。またアートマネジメントに長く関わる他の参加者の方からは、生きづらさではなく、生きやすさを作る回路をいかに設けるか、地域のことは地域の人が一番知っているので、地域の人と話す機会を多く作り、活動を行っていくことが今、重要ではないかという意見も出ました。

人, 屋内, 女性, 持つ が含まれている画像

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テレビを見る人々

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中山さん・笹川さん・渡邉さん・牛久さんが参加した「C 食×地域」では、たもんじ交流農園内にも雨水タンクがあることから、その雨水を凍らせ、寺島なすのジャムを添えて、かき氷として食べてみようという次に続くアイデアが生まれました。

 参加者のお一人は、配布された雨水タンクの水を飲んでみて、そのまろやかな味に驚き、市販の水は販売されているものだから安全だという先入観に自身はとらわれているのかもしれない、水にも栽培野菜/山菜のような分類があればいいのにという感想を共有しました。日本で暮らす多くの人は、雨水に対する知識が少ないばかりに、雨水=危険と勝手にレッテルを貼り、わざわざ海外から水を輸入し、ミネラルウォーターとして消費していることも多いが、知識が高まれば、山菜のように雨水を今まで以上に活用する方法が増えるのかもしれないと今後の展開が期待できる話題も出ていました。

空港の荷物受け取り場にいる人たち

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「食を媒体にすると、いろいろなことが、美味しく、まろやかにつながる」、いかに食を通して17のゴールにつながっていく経路・プロセスをデザインしていくか

全参加者がひとつの大きな円となった(3)「ラウンドテーブル」では、各々の多様な気づきが共有されました。基調講演に続き、今回も参加された方からは、食を媒体にすると、いろいろなことが、美味しく、まろやかにつながることを実感するとともに、基調講演で紹介された藝大SDGsのロゴの17色が重なった中心部を思い出し、いかに食を通して、17のゴールにつながっていく経路・プロセスをデザインしていくかが大切であることに気づいたという意見が共有されました。

図形

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食が持つ複数の可能性に気づいた数時間

 全参加者の気づきが共有された後に、熊倉教授・清宮ディレクター・ファシリテーター 中山さんによるまとめが行われました。

熊倉教授は、「農」が私有の営農地や市民農園でプライベートなものとして行われるだけでなく、一緒に育てて一緒に食べるというコミュニティ感のあるものとなっていくことの可能性に言及しました。これを受けて中山さんも、「食」はある種占有する・あるものを破壊する一面もあるが、あえて公の場でのコミュニケーションや対話を促すツールとして用いることで、いろいろな人が交わる場作りのきっかけとなるとよいのではないかと話されました。熊倉教授はさらに、社会を変えていく共同作業の場について食を通じてもっと考えていかなければならない、格差のなかで新しい世の中のあり方が自分には関係ないと思っている人たちにも食を介すればアプローチしやすく、一緒に参画できるようになるのではないかと、食が持つ可能性を提示しました。

 音楽イベントを多く手掛けてきた清宮ディレクターは、自身の体験を交え、お昼ごはんが特に重要だといいます。たくさんの人が関わるイベントではお昼ごはんによってスタッフのモチベーションが変わるそうです。忙しい日々では忘れていたが、今回、改めて食が活動を続けるためのモチベーションであることに気づいたと語りました。「vol.2 食 Food cycle」は、食が持つ複数の可能性に気づいた数時間となりました。

「vol.2 食 Food cycle」はシンフォニーを生み出しうるか

最後に、生演奏も交えながらバックサウンドを披露した小野龍一さんから今回の制作秘話が披露されました。今回のサウンドは、次の3つの工程から制作されたそうです。(1)各ゲストの名前のアルファベット表記を音に置き換えて、オリジナルのメロディーを作る→(2)隅田川のアルファベット表記を音に置き換えて、メロディーを作る→(3)(1)と(2)を組み合わせ、ひとつの音楽を作る。

 今回の場で構想はまだ固まりきってはいません。全参加者が今後の展開を思い描くなかで、「食」が持つ「人をつなぐ力」・「アート」が持つ「人を巻き込む力」を生かし、いかにつながりをひろがりへ展開させていくかが今後の課題となりました。

30名弱の実感に、各々の知恵と技術が加わり、今回のセッションが今後どのように実装されていくのか、そして小野さんの音楽のように、いかにシンフォニーを生み出しうるか、今後の展開に期待したいと思います。

天井, 屋内, 部屋, 民衆 が含まれている画像

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ワインを飲んでいる男性たち

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レポーター:松本知珠

写真:中川周(☆は発表者プレゼンテーション資料より引用)

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