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「新型コロナウイルスと音楽産業 JASPM緊急調査プロジェクト2020」
発足

新型コロナウイルス感染の広がりによって、音楽に関わる産業が大きな危機を迎えつつあります。日本ポピュラー音楽学会(JASPM=Japanese Association for the Study of Popular Music)は、この状況を受けて、4月20日に「新型コロナウイルスと音楽産業JASPM緊急調査プロジェクト2020」を発足しました。本学教員で、JASPM庶務・事務局担当理事でもある毛利嘉孝は、プロジェクトの呼びかけ人として参加し、GA毛利研究室の所属院生である澤田聖也、宮坂遼太郎、小田部恵流川、境実鈴が調査に関わるなど研究室としてこの未曽有の状況に取り組んでいます。

今後その調査の進捗状況は随時特設ホームページで公開されます。ご協力のほどを宜しくお願いいたします。

「新型コロナウイルスと音楽産業JASPM緊急調査プロジェクト2020」特設HP:
https://covid19.jaspm.jp/


「新型コロナウイルスと音楽産業JASPM緊急調査プロジェクト2020」発足にあたって
(特設HPより転載)

毛利嘉孝(東京藝術大学)

すでにメディアでも大きく取り上げられているとおり、新型コロナウイルスの感染拡大のために、日本のポピュラー音楽は大きな「危機」を迎えています。2020年2月末の政府の自粛要請を受け、コンサートやライブ、イベントの中止が相次ぎ、辛うじて開催するライブなどのイベントもほとんど集客が見込めない状態が続いています。特にライブハウスやクラブは、新型コロナウイルス感染の重要なクラスター拠点の一つとしてみなされているために、経済的にも社会的にも追い詰められています。

ミュージシャン、ライブハウス、イベント会社、マネジメント会社から音響や照明会社にいたるまで音楽産業のインフラ、そして音楽文化そのものが「危機」に瀕していると言えるかもしれません。

この危機的状況を受けて、音楽業界からもさまざまな動きが起こっています。3月17日には「新型コロナウイルスからライブ・エンタテイメントを守る超党派議員の会」が衆議院第一議員会館で開催され、党派を超えた国会議員と多くの業界団体が参加し、ライブ・エンターテインメント音楽産業の「危機」を訴えました。さらに、ミュージシャンやDJ,ライブハウス、クラブ劇場関係者たちが国からの助成金を訴えるSaveOurSpaceが10日余りで30万筆以上の署名を集め、3月31日に国会に提出しました。こうした動きは、4月7日に7都府県に対して非常事態宣言が発せられた後、自粛による音楽関連施設、飲食業、文化施設の休業が広がる中で、さらに大きな広がりを見せています。

「新型コロナウイルスと音楽産業JASPM緊急調査プロジェクト2020」は、この「危機」を踏まえて、ポピュラー音楽研究者という立場から、現在新型コロナウイルスの感染拡大の中でポピュラー音楽とそれを支える産業や業界、文化や施設、インフラに何が起こっているのかを緊急調査し、随時発表することで、問題を共有し、対策を考えていくために立ち上がりました。

プロジェクトは、当初SaveOurSpaceの活動に共鳴したポピュラー音楽研究者たちの草の根的なネットワークによって始められ、すぐに日本最大で唯一のポピュラー音楽研究者たちの学会である「日本ポピュラー音楽学会(JASPM=Japanese Association for the Study of Popular Music)」の公式の研究プロジェクトとして認められました。4月9日に、JASPMのホームページとメーリングリストでプロジェクトの告知が行われ、当初の呼びかけ人に新しい有志メンバーが加わりました。この研究プロジェクトに関わる研究者の多くはJASPMの会員ですが、広い意味でポピュラー音楽関連の事象に関心をもつ会員以外も含まれています。

どのような活動をどの程度期間と規模で行うのか。どのような調査方法で行うのか。緊急事態なので、こうしたことについても、活動を続けていく中で議論していくことになります。ポピュラー音楽研究という枠組みがあるとはいえ、専門領域も研究手法も研究対象も異なる研究者による活動です。一つの共同研究というよりは、いくつも異なる研究が重なり合いなら、新型コロナウイルスがポピュラー音楽に与える影響を多面的に―――時には矛盾した視点も提示しながら―――研究していくというプロジェクトになるでしょう。

とりあえずは、現状把握のための関係者への聞き取り調査を始め、情報収集と発信のためのウェブを立ち上げました。なお、業界全体が経済的危機に直面しておりスピードが重要だと考えています。調査はあまりまとまってない途中経過の状態でも、適宜このウェブサイト等を通じて報告いたします。

このプロジェクトを始めるにあたって、一つはっきりとしておきたいのは、ポピュラー音楽と呼ばれる領域の「危機」は狭義の「音楽」に決してとどまらないということです。音楽は、音楽家(ミュージシャン)によってのみ作られるのではありません。コンサートやライブを企画、プロデュースする人、ホールやライブハウスを経営する人、そこで働く人(そこにはボランティアも含まれます)、振り付けやトレーナー、音響や照明、映像や舞台、メイクや衣装、警備や輸送、設置、飲食、チケット販売や広報・広告、さらにレコード会社、レコード店、問屋、弁護士、会計士、メディア、評論家やジャーナリスト・・・など音楽産業のインフラを支えるさまざまな業種の人、そして言うまでもなく、音楽を楽しむリスナー、ファンや観客もまた音楽を「作る」人たちです。

さらにいえば、音楽は飲食やファッションなどほかの隣接領域ともっ緩やかに重なり合いながら深い関係を築いてきました。新型コロナウイルスが脅威なのは、こうした音楽をめぐるすべての実践―――音楽学者のクリストファー・スモールの言葉を借りれば「ミュージッキング」の実践―――の土台を脅かしていることです。私たちは、この社会的な広がりの中に組み込まれたものとして音楽を捉えています。それは、音楽だけではなく、広く日本の文化や生活の―――あるいは社会の―――「危機」でもあるのです。

もちろんこの新型コロナウイルス感染の広がりが早期に収斂することを期待したいところですが、今現在のところ予断を許さない状況です。長期のプロジェクトになる事も予想されます。このプロジェクトが、現状起こっていることを伝え、共有し、意見を交換するハブの一つになり、一刻も早くこの「危機」から脱出するための一助となれば幸いです。

ぜひともご協力を宜しくお願い申し上げます。

―――私たちの音楽を守るために

 

新型コロナウイルスと音楽産業JASPM緊急調査プロジェクト2020
2020年4月20日

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