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SHARJAPAN2
“Inter-Resonance: Inter-Organics Japanese Performance and Sound Art”
curated by Yuko Hasegawa

「inter- resonance , inter- organics」というタイトルは、音—非物資的なもの関係、身体および物質的なものの関係をそれぞれ表している。Inter-resonance は、intra-resonanceでもある。異なった音源がレゾナンスすると同時に一つの主体、身体、組織の中で生じる内省的なレゾナンスをも指す。Inter-organicsは人間と動物、植物、あるいはモノなど、異なったオーガニクスの間で交わされるコミュニケーションや関係をさす。

ジョンケージの4分33秒をまつまでもなく、日本人にはノイズを声や音楽ととらえる知覚習慣はあった。松尾芭蕉の俳句「静けさや岩にしみいる蝉の声」はその代表的なものいえる。その美学は1970年代に盛んになったフィールド・レコーデイングに見ることができるが、日本のサウンドアーテイスト、エンジニアが録音する音の繊細さと多様さは注目を集めた。最近ではエコロジーへの意識のもと、雪山など各地で氷の溶けていく音を録音したり音を集めたりする梅沢英樹など多くの若手作家が自然の声にフォームをあたえ、インスタレーションとして視覚化する試みを行なっている。今回トモコ・ソバージュは、天井から吊るした氷が溶けていき、それがボウルの水の中に落下していく音をハイドロマイクロフォンで録音再現するサウンドインスタレーションを展示した。複数のボールで奏でられる音は空間の中にレゾナンスし、その美しさと儚さとともに、マクロの状況で生じている気候変動の奏でる終末への音楽を連想させる恐ろしさを秘めている。

Tomoko Sauvage, In Curved Water, 2014. ©︎ Jens Ziehe

毛利悠子は、私たちの周りをとりまく不可視の現象やエネルギーを音に変換する。モノ、found object  や楽器、電流を通したワイヤーや磁石などを自在につなげて、音や振動を生じさせることで、普段私たちの目に見えない、ものの流れ、運動、力、磁場や電気といったエネルギーの流れの存在を、見えるようにしてくれるのだ。

地球の自転が最初コンパスを動かし、最後はベルを鳴らすーマクロからミクロへ、しかしそれは偶然ではないのだ。同時多発的に様々な見世物が行われる空間の概念「サーカス」(ジョンケージ)さながらに、地上のさまざまな要素がサンプリングされ調和や共鳴がつくりだされている。ポストヒューマンの情景でありつつ、なおも人が存在として許容されるホーリステイックなヴィジョンがそこにある。

Calls, 2013. Photo Kuniya Oyamada.

ホーリステイックなヴィジョンは、ダンサーである田中泯の語る「循環」に通じる。田中は、縄文時代の人々は輪廻転生という哲学ではなく、もっと自然に近い純粋に生命体の循環に身をゆだねていたのではないか、と語る。日本の森は、アニミズムや幽霊といった人間以外のいきものや異界のものとつながる場でもあった。大地には霊が宿っていて、生のエネルギーはそこからやってくる。田中が師とする舞踏の創始者、土方辰巳は、西洋のモダンや前衛ダンスに影響をうけつつ、1960年代、これを批判的に脱構築し、アイデンテイテイの起源を東北の土俗的な身体や踊りにもとめた。参照されたのは、大地へむかう重力、地を耕す農民の身体所作だった。腰の重心を落とし、ガニ股になって踏ん張る。そしてときにグロテスクとも見える白塗りをし裸体で、きわめてゆっくりと踊るのである。そこあるのは西洋的な垂直に上昇する均整のとれた美しさでなく、プリミテイブで野生的、しかし周囲の万物を感じ取り、これらによりそい、ともに呼吸することを意図した「生」そのもののもつ美しさなのである。山梨の森近く農業をしながら踊りを続ける彼の、その場その場で踊る踊りは、場で踊るのでなく、場を踊るのである。

LOCUS FOCUS ©️Madada

地からの響きは和太鼓の林英哲によって、ソロでの大太鼓の演奏という形でもたらされる。腰を落とし、背筋を伸ばして手を高くあげた状態で30分から1時間客席と反対の太鼓の面をみて打ちつづける壮絶なエネルジーを放射するパフォーマンスである。

Mio no Hasu Photo by S.Takehara

アニミズム的思考は機械やロボットにも及ぶ。Scary Beautyはinter-organicsの一つであるが、外観は人間らしくないこのアンドロイドが、振る舞いや表情によって人間らしくみえるための検証のためにオルタは作られた。Alternativeを意味するこのアンドロイドが指揮者としてオーケストラを指揮する。もっとも「人間的な」かつ芸術的感性と技能を要求されるこの仕事をどのようにオルタが行えるか。AI学者の池上と音楽家の渋谷は、見るものの想像力がオルタの人間らしさを補完するという。検証の途中、指揮者として楽団員がもっともよみとりやすい行為は、「呼吸」のテンポということがわかった。そこでオルタが呼吸を大きくしているふるまいの特徴として「呼吸のテンポ」で肩をあげるようにしたのである。今AIは我々の未来にとって大きなトピックとなっている。それは人間の再定義、これらと共存する世界の世界観の再構築にもつながっているのである。

Scary Beauty photo by Kenshu Shintsubo

私たちは分断と環境問題などによる危機の時代に生きている。森山未來のパフォーマンス「見ることみえないことの考察」はホセ・サラマーゴ原作の「白の闇Blindness」に基づく。人々がどんどん盲目になっていく世界。一人だけ見えている医師の妻。「私たちは見えなくなったんじゃない。最初から見えていなかったのよ」彼女のこの一言が今の私たちのいる世界の状況を語り尽くしている。

Consideration of Invisible / Visible photo by Shintaro Sumimoto

気づきをもたらすために必要な、注意深い観察、感覚をとぎすまして、周囲を、世界を知ること、ともに生きることのすべを考えること。ノイズからシグナルを聞き取る、見えないエネルギーの流れや関係性を意識の上にあげる。そして自分が世界の中の一部であることを感じながら循環の中にあることを身体でふるまいで確認すること。人間の最大公約数を検証することをやめ、世界とつながるための最小公倍数をみること。これを本展からのメッセージとしたい。

開催概要

会期:2019/12/20-2020/02/15

会場: Bait Obaid al Shamsi/Sharjah Academy for Performing Arts/Bait Al Naboodah Museum/Poetry House

Website: http://sharjahart.org/sharjah-art-foundation/exhibitions/inter-resonance-inter-organics-japanese-performance-and-sound-art

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