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Report
文=幸村和也

シンポジウム
「劇場と地域の未来」

 

 

2018年3月28日、東京藝術大学美術校地第1講義室にて、ゲストに高萩宏氏(東京芸術劇場副館長)、松浦茂之氏(三重県文化振興事業団 文化会館事業課長)、中島諒人氏(演出家・鳥の劇場芸術監督)を迎え、シンポジウム「劇場と地域の未来」が開催された。

 

 


シンポジウムの様子。左より高萩氏、中島氏、松浦氏、枝川教授(本学研究科)    写真=高木遊

 

 

本シンポジウムは、地方自治法改正、指定管理者制度の導入、「劇場、音楽堂等の振興に関する法律(劇場法)」や「文化芸術振興基本法」の改正(文化芸術基本法)といった日本の文化政策や、地域における文化芸術振興(文化芸術による地域振興)、社会包摂・・・といった、近年話題となっている「アートと社会の関係性」について、文化を創造する場である劇場を切り口として議論することを意図して開催された。

 

まず、「夢の遊眠社」の創立当時より活躍し、現在は東京芸術劇場の副館長として長く現場の第一線に立ち続ける高萩氏より、基調講演が行われた。

高萩氏からは、明治期以前までの「芝居小屋」から、集会施設として出発した公会堂が劇場へと変化を遂げていく過程など、日本における劇場の由来や成り立ち、特殊性についての指摘があった。また、法整備などを踏まえ、この数十年における劇場の機能・役割の変化について、簡潔に、しかし非常に丁寧に説明がなされた。

 

 


高萩宏氏    写真=高木遊

 

 

その中で、今回の「劇場と地域の未来」というシンポジウムのテーマに関して、「劇場を中心に、地域をどの範囲で捉えるか」「劇場の価値をどのように設定し、誰に訴えていくか」という話が印象的であった。地域の範囲としては、劇場から数百メートルの範囲なのか、数十キロ、数百キロ、はたまた日本国内、海外・・・。それぞれの「地域」に向かって適切な実行主体や取り組みを認識し、行政や地域の市民、時には劇場同士とも連携しながら活動を展開していくことが重要であると高萩氏は語る。それぞれの劇場が持つ価値を劇場側から訴え、様々なレイヤーの「地域」に向き合うことは、従来の受動的な「公の施設」から、劇場法の前文にも明記されている「新しい広場」「世界への窓」としての劇場への転換を果たしていくための第一歩であるともいえよう。

 

次に、鳥取県鹿野町の廃校を活用した劇場「鳥の劇場」の芸術監督を務め、自身も演出家である中島氏より、事例の報告がなされた。中島氏からは、劇場の社会的役割として「創る人がずっとそこにいて、その専門性を通じて、様々な関わりを作っていく」という点が提示された。その上で、「現在私たちが生活している社会がどのようなものであるかを捉え直し、自分たちのコミュニティを客観化・相対化する機会をもたらす」ことが〈現代演劇の力〉であり、「特定の場所に人が集まって他者と出会い、同じ時間を共有していく」ことが〈場の力〉である。そして劇場はその2つの「核」を持った場所なのであると中島氏は説明する。

 

 


中島諒人氏    写真=高木遊

 

 

実際、中島氏は劇団員とともに、地域の学校へのワークショップや戯曲講座、障害の有無を問わず集団で共に創作活動を行う「じゆう劇場」、10年以上続く「鳥の演劇祭」や日本、中国、韓国の三国間によるBeSeTo演劇祭、海外公演など様々な形で劇場の社会的役割を果たそうと活動を行っている。その中島氏が最後に強調したのは、アーティストと地域は「互恵的な関係」であるべきだ、という点である。地域における芸術の役割が注目されている近年において、「コミュニティに対して自分が良い影響を与えられると思うのももちろん良いんですが、実は大事なことって、一方通行ではなく、互恵的な関係であるということ」「演劇人もコミュニティからたくさん学びます。で、その学んだことを通じてまたコミュニティに返していく」という話は、特に芸術大学で学ぶ若いアーティストに対して向けられた言葉であり、長期にわたって地域コミュニティと向き合ってきた中島氏だからこその言葉であっただろう。

 

最後に、三重県文化会館で様々な事業を展開している松浦氏より三重での取り組みについて紹介がなされた。三重県文化会館では、「劇場法時代にあるべき理想の劇場をつくること」「県立の施設として、県全体への波及効果を考えること」の2つのビジョンの下、平日昼間に開催され、気軽にコンサートを鑑賞することのできる「ワンコインコンサート」や若手の劇団をセレクトして滞在制作を行う「Mゲキ!!!!!セレクション」等、多様な事業を展開している。アーティストと観客、その双方の様々な層にアプローチを行うことで、多様な人的交流がなされ、それぞれのジャンルが活性化されるのだという。実際、施設の稼働率は15年以上右肩上がり。滞在制作を行った若手演出家からは、「演劇界の芥川賞」とも言われる「岸田國士戯曲賞」の受賞者も複数輩出している。松浦氏曰く、「実際に劇場がどんどんにぎやかになっている実感がある」。

 

 


松浦茂之氏    写真=高木遊

 

 

他方で、劇場と社会課題の関係性については、意外にも「正直難しいところもある」という。「社会包摂といった言葉が大きすぎて、わかりにくいところがある」「社会課題を解決するというのはおこがましい気もする」と話す松浦氏は、「社会課題に向き合う、向き合って悪戦苦闘する」ことが重要なのだと語る。実際に「老いのプレーパーク」という介護問題や高齢化社会に向き合う事業を実施する際には、介護施設、大学病院、県庁や関連団体などにまで足を運び、丁寧な合意形成を行ったのだという。その語り口と取り組みからは、まさに「真摯に向き合う」という姿勢が感じられる。

講演の最後にはアートと経済活動についても興味深い話があった。例えば先ほどの「ワンコインコンサート」は平日の昼間に文字通り500円でコンサートを楽しむことのできるプログラムだが、コンサートを鑑賞すると近隣のレストランなどで割引を受けられる。「平日昼間にコンサートとランチを楽しんで帰るというライフスタイルを提案している」のだとという。

単に芸術活動を楽しむところから、介護、教育、経済など様々な分野を横断した活動へ。地域に開かれ、地域に根差す劇場としての意識が垣間見える。

 

三者の講演の後には本学の枝川教授を交え、トークセッションと質疑応答が行われた。トークセッションでは日本を取り巻く経済状況や文化予算、今日の劇場の取り組みやその評価をいかに捉えるかなどについて議論が交わされた。また、質疑応答では実際に地域で舞台芸術活動を行っているという方から地域で実際に活動を行うことの難しさ、離れた地域同士の連携の可能性、公共ホールと民間劇場の関係性などについても提起がなされ、全体として充実した時間を送ることができた。

 


 

今回のシンポジウムを企画した当初、「劇場と地域」と大きく(ともすれば乱暴にも見える)まとめてしまうことには多少の抵抗もあった。しかし、あえてテーマを大きくとることで、様々な状況や課題、可能性があるという諸相を描き出し、その上でなお、多くの事例のあり方を超えて共通する論点や視座があるとすれば何か、それはどのようにして向き合っていけば良いのかを明らかにしたいと考えた。今回のシンポジウムは実際に様々な示唆に富んでおり、その一端を描き出すことができたのではないかと思う。

 

我々を取り巻く社会情勢は急激に変化しており、そして今後もその変化が止まることはなさそうである。だからこそ一度立ち止まり、自身や他者の身体と向き合うための劇場という場所そのものについても考えてみることが必要なのではないだろうか。

 

 

 

文=幸村和也(国際芸術創造研究科 修士課程)