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Report

2018年度 東京藝術大学 公開講座
藝大ムジタンツクラブ(前期)
開催レポート

 

2018年8月25,26日,9月2日の三日間にわたり、本研究科の酒井雅代(助教)、山崎朋(助手)が講師をつとめる公開講座を開催しました。

 

ムジタンツとは、ドイツ語のMusik(音楽)とTanz(ダンス)を組み合わせた造語です。クラシック音楽の作品を題材に、身体を動かしながら音楽を体験・体感すること、作品との対話を通して子供達が多様な価値観に触れること、作曲家の創造のプロセスを紹介し追体験することで子供達の創造力を刺激することを目指しています。また、好奇心から発展する学びや創造性(想像性)や、コミュニケーション能力、他者と協働で思考を深めたり新たな価値を生み出していく能力を育むためのアプローチとしても取り組んでいます。

 

ここに三日間の開催レポートを掲載します。

 

 

※ 次回は2019年6月23日(日),6月30日(日),7月14日(日),7月28日(日),8月3日(土)に開催予定。
概要・お申込みはこちら 東京藝術大学 2019年度公開講座


 

1日目<音楽と自然>

 

◾️そもそも音楽ってなあに?

期待と不安が入り交じった表情で集まってくださった参加者の皆さん。「そもそも音楽ってなんだろう?」ということを考えてもらうところから講座が始まりました。

①あなたにとっての音楽はなあに?②音楽は何で出来ていますか?③音楽はどこから聴こえてきますか?という質問に、思い思いの考えを書いています。

 

 

◾️ようこそ!ムジタンツクラブへ

参加者が全員揃ったところで、会場へ。ピアノとヴァイオリンの演奏が聴こえてきます。「自由にどうぞ、好きな場所に行ってもいいよ」と言われ少し戸惑いながらも、徐々に演奏者に近づいてくる皆さん。

 

 

◾️アフリカの歌《オビサナ》

《オビサナ》はアフリカの子供の歌。「Obwisana sanana 」という歌詞は、「石に手をぶつけちゃったよ」という意味。円になって歌い、石ころを使ってリズムをとりながら、隣の人に石ころを回していく。石が跳ねたり、うまくいかないことが笑いを誘い、徐々に緊張がほぐれていく様子。子どもも父母も楽しそう。緊張していた子どもも、この辺りから笑顔が見られるようになりました。

 


見本を見せるファシリテーターたち

 


ドラムの伴奏も加わって

 


全員で一緒に

 

 

◾️ヴィヴァルディ作曲《四季》より、春を体験してみよう

ムジタンツ初日のテーマは「音楽と自然」。まずは、森について思いを巡らせてみよう。
森ってどんなところ?何が聴こえる?
鳥の声ってどんな音?川のせせらぎってどんな音?嵐の音ってどんな音?

 


森を探検する映像を見ながら、聞こえてくる音を想像してみる。

 

演奏とともに「春の森」のお散歩。会場にひかれた小道を歩きながら、想像の森を探検します。
歩みを進めてゆくと出会うのは、鳥のさえずり(バードコール)、川のせせらぎ(紙)、雷(足踏み)など。楽器、道具、身体を音楽と同期させながら、体感しました。

 

 

—–休憩—–

色々な種類の太鼓に興味津々な子供たち 

 

 

◾️ラヴェル作曲《水の戯れ》を探求してみよう
ー水の動きを観察してみよう
「静かな海」「川のせせらぎ」「噴水」「大きな波」をそれぞれ大きな映像で見てみます。
大波・小波や波のうねり、水しぶきなどを観察したら、布を使って水の動きを真似します。どのようにしたら水の動きを再現できるのか、試行錯誤。みんなで息を合わせたり、タイミングをはかってみたり。チームワークも大切なポイントです。

 

波の動きを布を使って真似してみます。 

 

全員で大波にも挑戦

 

布で模倣した波を、今度は木琴と鉄琴をつかって表現してみます。
水の動きを音にするとしたら…どんな方法があるかな?

 

 

更にメロディが加わり、「波の音」とメロディを融合させてみます。
そして、それぞれのグループがつくった音楽を聴き合いっこ。

 

 

最後に、ラヴェル《水の戯れ》をもういちど通して聴いてみます。
途中で題辞として掲げられている「水にくすぐられて笑う河神」(アンリ・ド・レニエ)が登場。ピアノ演奏と波の表現、女神のダンスにより、神話的な世界観に子供たちを誘いました。

 

 


2日目<音楽と数字>

 

2日目。参加者たちは前日にくらべリラックスした様子で、談笑を交えながら集まってきました。講座が始まる前に、1日目のワークの中で楽しかったことをホワイトボードへ寄せ書き。ファシリテーターも一緒に、どんなワークをしたか、何が印象的だったか等について対話をしながら、前日の経験を思い起こします。

 

 

◾️バッハ《ガヴォット》にのせてバロックダンスを踊ってみよう
まずはウォームアップ。バッハ《ガヴォット》のヴァイオリン演奏に合わせて、バロックダンス風のステップに挑戦します。ステップは徐々に難易度があがってゆき、回転したり、ジャンプしたり。戸惑ったり失敗したりしつつも、動きが激しくなるにつれて自然と笑みがこぼれます。
ここでねらいとしているのは、ダンスのステップが上手にできるようになることではありません。音楽と身体をリンクさせながら、身体を使って音楽を感じ取る経験を促し、身体を使うことへのハードルを低くしてゆきます。

 

 

 

◾️音楽家ピタゴラスについて
ー響き合う音を探してみよう
ー数字で遊んでみよう
身体がほぐれたら本編へ。2日目のテーマのひとつ、ピタゴラスの紹介から始まります。
ピタゴラスが数と響きの理を発見したこと。当時の人々が天体の配列や運行から音楽(響き)を見出していたこと。素材の重さや長さによって音の高低が生まれること。
西洋音楽の起源ともいえる内容に、参加者たちは熱心に聞き入っていました。

 

 

続いて一人ずつにトーンチャイムが配られ、全員で円になって座ります。
順番に鳴らす、一人おき・二人おきに鳴らす、好きな3音を選んで鳴らす、などなど、いろいろな方法で音の響きを作りだし、ひとつひとつ丁寧に聴き比べてゆきます。科学の実験のような雰囲気に、集中して耳を傾ける皆さん。

 

 

 

休憩をはさみ、後半へ。
続いてのテーマは「バッハ」です。

 

◾️作曲家バッハについて
ーバッハ《インベンション》
ー楽譜の道で遊んでみよう
ーモチーフを作ってみよう
ーモチーフの反行系と鏡像系
床に引いた5色の線を五線紙に見立てて、ステップ(身体)と木琴の音を同期させるグループワーク。線を踏んだり線の上で跳ねたりするのに合わせて、対応する音階の木琴を鳴らします。遊び感覚で取り組める仕掛けに、子どもたちも親御さんも夢中になって取り組んでいる様子。

 

 

5色の線と音階との関係を理解できたら、続いてグループごとに短いメロディの創作を行いました。
創作したメロディの通りに毛糸でつないでみたり、それを紙に写しとってみたり。さらにそれを鏡に映して反転させたり、逆向きにしてみたり。視覚的に形を工夫し変化させながら、その度に音でも確かめてみます。

パズルのように図形を変化させながら、バッハ《インベンション》の作曲の手法を体験的に学んでゆきます。

 

 

最後に、グループごとに創作した音楽を発表しあいます。それぞれの趣向を凝らしたメロディの展開に、思わず「ほぉ~」「なるほど~」の声が上がりました。

 

 

本日のおまけ。
《インベンション》ピアノ演奏の右手と左手、それぞれの動きをステップに置き換えたダンスをデモンストレーションとして披露しました。

 

 

 

◾️バッハ《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004》より
2日目の最後に、バッハの自筆譜をスクリーンに投影しながら《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004》の演奏を鑑賞。楽譜が模様のように見えて、形が見えるかな?

 

 


3日目<音楽と言葉>

 

◾️きらきら星体操
3日目はモーツァルトの作品を取り上げました。
ウォームアップをかねて、モーツァルト作曲「きらきら星変奏曲」にのせ、体をほぐしながら動きの「ヴァリエーション(変奏)」を体験してもらうところからスタート。

 

◾️パパパゲーム
ーセリフを音に変換してみる
あらかじめ用意されたセリフを、すべて「パ」の音に置き換えて親子で読んでみます。次に親子2組ずつのグループに分かれ、それぞれの親子がどのセリフを読んでいるかあてっこします。音の高低と強弱だけで、内容を伝えることができたでしょうか?
そして今度は、「パ」に置き換えたセリフを、楽器を使って「音」に置き換えてみます。すると、セリフはどうなるでしょう?どのセリフを奏でているか、みんなで当てっこします。

 

 

◾️モーツァルト作曲《魔笛》より
パパパゲームで遊んだ後に、モーツァルトのオペラ 《魔笛》を映像で鑑賞。
参加者の皆さんもパパゲーノ組/パパゲーナ組に分かれ、ピアノとVnの伴奏にあわせて合唱してみました。

 

◾️王冠の飾り付け
モーツァルトのオペラ《イドメネオ》より、メヌエットの映像を鑑賞。2日目に踊ったメヌエットをふりかえりつつ、昔の王様の洋服を観察してみます。どんな装飾がついているでしょうか?
さて、昔の王様にプレゼントする気持ちになって、王冠に飾り付けをしてみよう!グループに分かれて王冠の絵にシールを貼ったり、色を塗ったりしていきます。

 

 

◾️バリエーション(変奏)を作ってみよう
今後は音楽に飾り付けをして、グループで変奏曲を作ってみよう。
モーツァルト「きらきら星」の変奏をいくつか聴いてみた後に、再びグループに分かれ、木琴や鉄琴などの打楽器を使って自分たちのバリエーションを創作します。グループには協力な助っ人ファシリテーターの音楽家も加わります。

 

 

それぞれのグループが作ったバリエーションを、お互いに聴きあいます。自分たちが思いつかなかったアイディアがあったかな?似ているところがあったかな?

 

 

最後に、モーツァルトが作曲したヴァリエーションと、グループで作ったヴァリエーションを交互につなげ、ムジタンツバージョンの「キラキラ星変奏曲」を奏でてみました。

 

◾️モーツァルト作曲ヴァイオリソナタ ト長調 KV301 を聴いてみよう
音でお話ししている感じや、2楽章に出てくるヴァリエーションに注目してみよう!

 

 

 

三日間の会期を通して約10曲を取り上げ、様々な方法で鑑賞、体験、創作に取り組むことができました。


◾️参加者の声(アンケートより抜粋)

 

【子供編】音楽について、新しい発見はありましたか?それはどういうものですか?
・音と音を合わせたら、とてもきれいな音になって表現できること。
・すごく昔の人が音を発見して、今につながっているということ。
・ダンスの音の高さや低さがかわったりしている
・こんな音楽があるんだぁと思って、とても楽しい気持ちになった。
・音楽でも言葉みたい
・わたしは、最初は音楽は聞くだけだと思っていました。でもかなでるものとわかってよかったです。またここにきたいです。

 

【大人編】ご意見、ご感想がございましたら、自由にお書きください。
・こどもが回を重ねるごとに次の講座を楽しみにしていました。
・いろんな視点から音楽が体験できて、とっても楽しかったです。もっと時間が長ければ良かったなぁと思います。
・子供も学んだと思うが、大人も学べるところがいっぱいあった。
・とても楽しい3日間でした。音楽を身近に感じられました。このような講座をぜひ小学校や学校の先生対象にしていただくとこどもたちに反映できて良いと思います。
・もう少し近くで、このような講座があったらとは思いました。子供の未来へ向け、何が良いこととしてつながるかわからない育児ですが、とても良い機会だったと思っています。
・音楽の起源などをじっくり考えることができ、これからも違うスタンスで音楽を生活に取り込んでいければと思いました。
・学校の授業では経験できないような内容でしたので、参加して良かったです。


Special Thanks: 吉成とも子、石川清隆、戸塚弘幸、別府一樹、古橋果林、田中天眞音

講師・監修:箕口一美