In Depth

Interview
文=幅谷真理

micro-voice:感覚のその奥へ

——池田剛介インタヴュー

 

《モノの生態系——台南》(2015年、サイズ可変、ミクストメディア)

 

2010年の《無人島に降る雨》や、2014年台湾で制作された《モノの生態系—台南》など、池田剛介の作品の中には〈生態系〉というキーワードがよく出てくる。日々の生活に〈生態系〉を感じることができる人はどのくらいいるだろうか。人工物に囲まれ、何もかも制御・支配・把握できると錯覚しがちな今日において、絶妙なバランスで他の生き物・自然と共存している感覚を保ち続けるのは容易なことではない。池田はあえて人工物で、自然のシステムを再構築しようと試みる。その中に見えてくる確かな感覚をもとに、インタヴューを行った。

 

◆震災前後で変化した〈生態系〉への感覚

 

──2011年に参加された《東京藝術発電所》以降、池田さんは特に電気やテクノロジーに着目して作品を制作されているようですが、震災以前と震災以降、〈生態系〉というものに対する感覚がご自身の中でどのように変化されたのでしょうか。

 

池田:もともと自己表現的なアートのあり方について疑問を持っており、自然現象や物理的な仕組みを作品に導入することに関心がありました。しばらく透明樹脂を用いて、結露によって発生した水滴の群れをモチーフとした平面作品シリーズに取り組んでいましたが、その延長上で、《無人島に降る雨》は実際の水の循環を用いた作品になりました。その直後に震災が起き、2011年に震災をテーマとした「堂島リバービエンナーレ」(飯田高誉キュレーション)でも、水の循環によるインスタレーション《Exform》を制作しています。

 

《無人島に降る雨》や《Exform》では、水の循環を用いて、生態系的な流転状態を喚起させたと思うのですが、福島の原発事故や東京が電力不足で大混乱するという経験を経て、電力の問題に関心が向くようになりました。これまで作品の中で電気を使っていたのにもかかわらず、電力そのものについてはほとんど考えてこなかったことに気づかされたわけです。ということでその後のプロジェクト《東京藝術発電所》では、実際に展覧会会場で発電を行うことまで含めて、具体的なエネルギーの変化や移動を扱うようになりました。

 

──池田さんの作品からは、大きなエネルギーや大きなものよりも、小さなものだったり私たち一人一人が持つ小さなエネルギー(小さく見せかけているが、実は本当の意味で大きいのは私たちの持つ小さな絵熱ギーなのかもしれない)を感じることができます。巨大なものではなく、小さくてアナログなものに注目し続けている理由やきっかけがあれば、教えていただけないでしょうか。

 

池田:原発の問題を通じて、福島のような都市部から遠く離れた場所で大量の電力を作り、その犠牲を見ないようにして、東京のような都市部で無限の(ように感じられる)電力を消費している、そうした構造そのものに疑問を持つことになりました。その構造とは別のヴィジョンとして、むしろ小さく発電し、その有限なエネルギーの中で何ができるのかについて考えることが重要だろうと。手に取れる具体的でアナログな仕組みや、実際に体を動かして発電を行うことを通じて、エネルギーという普段見えないものを知覚し、体感可能にしたいと考えています。

 

《モノの生態系——台南》(2015年、サイズ可変、ミクストメディア)

 

◆打ち捨てられたモノたちに、新たな〈生態系〉を与える

 

──例えば《モノの生態系—台南》の中では、作品の中のモノがそれぞれ繊細な動きや音を発します。人やモノの流通は国境を超え、数字ひとつで何億ものお金が動き、あらゆる場面が大規模な構造になっている社会の中で、作品を通して繊細な動きを見つめる必要性、それらを感じる意義は何でしょうか。

 

池田:基本的なスタンスとして、作品では社会的メッセージのような認識レベル(言語的なレベル)というよりも、言語的に概念化されるより手前にある、感性や知覚の次元に働きかけたいと考えています。その時に、観客に対して強い力(インパクトやスペクタクル)によって迫っていくよりも、微細なモノの動きやしつらえを通じて、見る者がそこに知覚を向けていくようなアプローチをしたいと考えています。

《モノの生態系-台南》では、台南という場所に一定期間滞在しながら、そこで発見した、打ち捨てられたような(つまり人間的な機能や役割を失った)モノたちを拾い集め、それらに新たなネットワーク(生態系)を与えることで、台南という固有の場所に対して別の光を当てるようなものになればと考えました。

 

*参考リンク:レポート『モノと自然の騒めく街で 台南滞在制作記』/池田剛介

 

 

──最後に、今後の制作活動について教えていただけないでしょうか。

 

池田:最近は、水の循環や発電によるプロジェクトから一巡して、それ以前に取り組んでいたような、透明樹脂で水の運動を絵画化した作品に再び取り組んでいます。プロジェクトやインスタレーションで追求してきた関心を、より造形的な作品として固定化させることに関心が寄ってきている時期かと思います。

またプロジェクト的なものとしては、非-人間的なモノへの関心の延長上で、最近は2014年の台湾立法院の占拠(デモ)に着想を得て、「モノの占拠」と題した参加型のワークショップにも取り組んでいます。普段は使われていない備品などのモノが、ある一定の空間を占拠することで、日常の空間の秩序や人間の振る舞いに変化を与える、そうしたことに関心があるのだと思います。

 

「モノの占拠」ワークショップ(2016年、京都芸術センター)

 

*参考リンク:はじめに・池田剛介

 

[インタヴュー収録日:2018年1月28日]

文=幅谷真理(国際芸術創造研究科 修士課程)

*本インタビューは授業「芸術編集学」の一環として実施しました。

 

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