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文=井川友香

北京師範大学サマースクール
「メディア/アニメ/デジタル産業」コースを終えて

 

 

 

2018年7月17日(火)から29日(日)にかけて、北京師範大学芸術・メディア学部(Digital Media Department School of Art and Communication, Beijing Normal University)より学部生27名と何威(Wei He)副教授、朱小枫(Xiaofeng Zhu)先生、陈亦水(Yishui Chen)先生、そして香港中文大學(Chinese University of Hong Kong)からアンソニー・ファン教授を迎え、「メディア/アニメ/デジタル産業」コースと題したサマースクールを東京藝術大学の千住キャンパスを中心に開講しました。

※配布資料はこちらからダウンロードいただけます:日本語中国語

 

 


福原先生の講義。


熊倉純子国際芸術環境創造研究科長のあいさつ。左に立つのは講義を終えたばかりの中村先生、司会の毛利先生。

 

 

 

この2週間のサマースクールでは、今回プログラムを作成した大学院国際芸術創造研究科の毛利嘉孝教授を中心に、大学院映像研究科の岡本美津子教授、グローバルサポートセンターのイラン・グェン(Ilan Nguyen)特任准教授、音楽環境創造科の後藤英准教授といった学内講師陣に加え、学外からは福原伸治(BuzzFeed Japan動画統括部長)、原田悦志(NHKプロデューサー)、中村伊知哉(慶応義塾大学教授)、玉川博章(日本大学非常勤講師)、高山晃(ファンワークス代表取締役)、松井久美(ファンワークス・ディレクター)、清水知子(筑波大学大学院准教授)、ポール・ロケ(MIT准教授)、小林桂子(芸術文化振興基金プログラムオフィサー)、畠中実(ICCチーフキュレーター)の総勢18名がゲスト講師として登壇し、日本のメディアやアニメーション、デジタル産業にまつわる様々な状況についてレクチャーを行いました。

今回のプログラムの内容は、日本のアニメーション制作やその歴史、マスメディアやインターネット、文化政策、ポピュラー音楽、先端技術やメディア・アートなど多岐に渡ります。また、教室での講義の他にディスカッションや街へ出てのフィールドワーク、博物館や美術館、作品制作現場の見学等も行いました。

今回の通訳は主として国際芸術創造研究科に在籍する中国からの留学生が担当するなど運営は、院生や学部生が担当しました。特に後藤先生の講義の際には、音楽環境創造科の学生も議論に加わり活発な意見交換も行われました。

 

 

 


映像研究科を見学する北京師範大学の学生たち。


岡本先生による説明を受ける学生たち。


ICC(インター・コミュニケーション・センター)見学。

 

 

 

中国といえば、政府によるインターネットのアクセスの規制ばかりが日本では話題になりますが、ネットを駆使した文化受容や経済活動については実は日本よりもかなり先進的な面が多々見られます。今回来日した10代後半から20代前半の学生らは皆、日常的にパソコンやスマートフォン経由で各国の映像や音楽、マンガを課金、購入し楽しんでいるとのこと。いまだにネット上の有料コンテンツよりもテレビ番組の方が一般的で、有料のネットコンテンツの普及がなかなか進まない日本とは対照的です。

中国都市部では、各端末とクレジット情報の紐付けが近年急速に進み、日々の消費活動で現金を使用する機会がほとんどなくなりつつあります。コンテンツの受容も「データ」形式が中心になっています。ある講義中に明らかになったことですが、ほとんどの参加者が「CDを購入した経験がない」という状況や、日本ではネットコミュニティから派生したニッチな音楽ジャンルが中国ではメジャーであったことなどは、こうした状況を示す象徴的な出来事ともいえるでしょう。

 

 


高山先生の講義。


ポール・ロケ先生の講義。


小林先生の講義。

 

 

このような形で、日本とはまったく異なる情報環境をバックグラウンドに持った学生が来日し、同時代的な視点で日本の文化やメディアについて興味を持ち、学ぶ機会をもったことは、日本で生活する私たちにとっても大きな可能性を開いたように思います。なかには日本の大学院の進学や日本企業の就職を志す学生もいるようです。彼らの今後の活躍が期待されます。

 

 

 

文=井川友香(国際交流プログラムコーディネーター:サマースクール担当)