異解-路泡プロジェクト(IJIE-ROHOU Project):コロナ禍における日台芸術文化交流プログラム

https://www.ijierohou.com/

 

異解-路泡プロジェクトについて

これは東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科と国立台北芸術大学芸術跨域研究科(Trans-disciplinary Arts)の交流事業から生まれたプロジェクトです。これまでは実際にお互いの国を行き来し、それぞれの芸術や歴史に触れる機会を持ってきましたが、本年度はオンラインミーティングを9月から繰り返してきました。そのなかで、新型コロナウイルスをめぐる互いの状況について直接話したり、人や情報の行き来を進展させるグローバル化について考える機会を持ち、「Museum without border」というテーマをもとに何度か発表や意見交換を実施しました。国境、性差、健康などをめぐる様々な境界をまず認識することと、それを批判的にとらえて越えていくにはどうすればいいのか。一緒に学び、考える題材が、これほどまで日々の経験と直結していたというのは、例年にはない特徴だったはずです。

タイトルはまず、この話し合いから一緒に居ても隔たれている現状を認識し、英語でWith-Outという言葉から、お互いが漢字文化を共有している点をふまえて二つの漢字の言葉を造りました。台湾側が「異なる」と同時に「解ける」という言葉、日本側が「泡」に包まれながらも「路」(みち)を歩く、という言葉を考え、一緒に並べたのがこのプロジェクトタイトルです。
2021年1月30日に、このプロジェクトに参加した学生は同時にそれぞれの大学のキャンパスから相手の方角に向けて歩き出します。きっと個人の行為が緩やかに集団になり、ある場所から別の場所へ歩くことは異なるものを結びつける物語を生み出すでしょう。そして、その道のりで発見したものをお互いに共有し、ときどき足を留めてパフォーマンスやワークショップを実施します。会うことはできないですが、同じ時間を共有し、それぞれの感じ方や社会の違いを知る試みとして、この「異解路泡(イジエ‐ルホウ)プロジェクト」が開催されます。

※この事業は東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科のアーツスタディ・アブロードプログラム(ASAP)によって実施されています。

プログラム・ディレクター
住友文彦(東京芸術大学大学院国際芸術創造研究科准教授)

 

ロゴについて

境界は差異をつくりだします。 境界は見えない膜であり、両側からふたつの力が加わっています。もし、この境界を溶かすつもりなら、このふたつの力を結び付け、膜を消し去るか、変容させないといけません。現在の深刻な共同体間の差異には、フィルターバブル(検索サイトやSNSのアルゴリズムが情報を遮断する機能)による境界が存在します。したがって、境界はそれぞれの泡(バブル)のかたちでもあり、差異の痕跡でもあるのです。 膜としての境界は、ふたつの力の緊張による有機的なつながりです。境界を越えることは、緊張によって膜を溶かし、その関係性を変容させて新しい共生を作り出すことです。したがって、私たちは境界と地理的な経験の間には親密な関係があると言うことができるはずです。 このように考え、プロジェクトのロゴは以下の4つの漢字を組み合わせました。 “I” (異,different) “Jie”(解,understanding/melting) “Ro”(路,traces) “Hou”(泡,filtered bubble)

 

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東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科(GA)と国立台北芸術大学芸術跨域研究科(TA)の大学院生によるプロジェクトの概要


 

 

 

 

 

 

 

 

プロジェクトタイトル:On-Line
プロジェクトメンバー:王 季帆 Chi Fan Wang、小田部 恵流川 Erika Kotabe(GA)|林 晏竹 Yan Ju Lin、張 美宇 Mei Yu Chang、趙 曼君 Man Chun Chao(TA)

「On-Line」プロジェクトは、あえて地理的なボーダーの境界を曖昧にしてボーダーレスな空間を創出することで、私たちの生活の中にあるボーダーについて再考することを目指すプロジェクトです。私たちは現在、台湾と日本という異なる国に暮らしています。その間には国境や文化、言語といったボーダーが存在します。本プロジェクトでは、グループメンバーがGoogleストリートビューを用いて映像作品を制作し、日本と台湾の似ている街の風景をミックスしていくことで自分が台湾と日本どちらにいるのか分からなくなるようなボーダーレスな空間を表現します。また、制限や境界を意味する「警戒線」も間に入れることによって、意図的な「ボーダー」も作り出します。背景の音楽は、日常生活で収集した環境音をソフトで一つの曲にしたものです。プロジェクト本番である1月30日にこの作品を参加者に鑑賞してもらい、それぞれの「ボーダー」の意味を考える機会を持ちます。そして、町歩きをする中で自分が考えるボーダーを写真や映像で撮影してもらいます。台湾と日本から本企画のインスタグラムアカウントにそれぞれが考えるボーダーをアップロードしてもらうことで、オンライン上が「ボーダー」について考える「ボーダーレス」な空間となるのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

©︎Yuto Hayashi

プロジェクトタイトル:Can I see You now?
プロジェクトメンバー:松江 李穂 Riho Matsue(GA)、林 裕人 Yuto Hayashi(ゲストアーティスト、東京藝術大学映像研究科)

グーグルストリートビュー上の仮想空間で人に会いに行くオンラインゲームを、台北と東京2つのエリアで同時に行います。プレイヤーとなる2人がPCを用いてアプリケーションに接続すると、ボイスチャットが開始されます。どちらか1人がよく知っている場所の座標を入力すると2人はそれぞれ街のどこかに現れ、ボイスチャットを通じて見たものを伝え合いながら出会うことを目指します。出会ったその後は、仮想空間上の台湾、日本互いの国にある美術館を訪れ一緒に回って鑑賞したり、それぞれの街を紹介しながら散策することもできます。しかし仮想空間としてのストリートビューと現実空間との間にある幾つものズレが、ときに私たちの出会いを困難なものにするでしょう。果たしてどちらか一方の身体が知っていてどちらかが知らないその道を、私たちはどれほど共有できるでしょうか?このゲームを通じて、オンラインを用いた出会いの可能性ともどかしさについて考えます。

 ※企画は2人一組(GAとTAから一人ずつ・時間内に3−4組交代)で行う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

©︎Yang Fang

プロジェクトタイトル:The 404 Shrine
プロジェクトメンバー:方 瑒 Yang Fang(GA)、Ness Roque(ゲストアーティスト、GA)

「The 404 Shrine」とは、その姿を見ることができず、またどのような手段を使っても訪れることのできない架空の神社です。「The 404 Shrine」は独立した研究機関であり、年に1度だけさまざまな国に住む人々の願いを調査します。インターネット上の匿名データのなかで、人間の心の境界線はどこにあるのかを整理することが目的です。本調査は主にビッグデータテクノロジーを使用して進められます。AIが私たちの人生に深く介入し指図するようになって以来、ビッグデータテクノロジーは私たちの人生における新しい神になりつつあります。異なる国々のさまざまな言語(英語、日本語、中国語)で書かれた新年(2021)の願いに関するデータを収集し分析することを通して、私たちの思考を浮かび上がらせることができるでしょう。以上の結果をもとに、私たちは人間(アーティスト)とAIの会話からなる実験的なパフォーマンスを行います。

※Yang Fang(ビッグデータの分析)、Ness Roque(パフォーマンス、サウンドインスタレーション)
https://nessaroque.postach.io/

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

プロジェクトタイトル:居心地Igokochi
プロジェクトメンバー:黃 宇鵬 Yu Pang Wong 、翁 榛羚  Jhen Ling Weng(TA) 

東アジアを覆った近代資本主義の雲を超えて、中国語における「dwelling(住居)」は「house(家)」に代わる記号として流布しています。日本語においては「居心地」という言葉が、ある場所をぶらつく際の心持ちを指すようですね。現代ドイツの哲学者であるペーター・スローターダイクは、人間は境界線を引くことからは逃れられず、また世界を「球体」として認識する傾向にあると主張しています。「世界に存在すること」は「球体の中に存在すること」と同義なのです。このような形而上学的な基礎構造は外部の干渉から守られており、それ自身を育成します。もちろん日常的な言葉から外国語、そして形而上学の体系に至るまですべてが完全に等価ではありませんが、少なくともそれは現状に対する気づきを促すでしょう。

言い換えれば、なぜ人間はある場所に根を張るのかということを私たちは問いかけているのです。私たちの過去の歴史的な記憶と現在の個人的な経験から、どのような未来が作り上げられるでしょうか?これは大きな問いです。とはいえ、自己と他者、文化と自然、権力と植民地化など、これらすべてがもし(非)偶然的に内部空間の出来事として構築されているのならば、漠然とした可視性はなんとかして外部に開かれるべきです。静けさの間に囁き声が響くことを信じて。

ここに再・想像への招待状があります。さあ、「起伏」や「クリスタルパレス」のある4つの物語に分かれ、音と共に(音がなくとも)ハプニングを作り上げましょう。これは行ったり来たりをするような旅路です。あなたは地球の測量士として、かつては他の領地をスケールアップさせたりスケールダウンさせたりしていました。今あなたは故郷に帰ってきて、特別な比率を持った住人として自己を投影し、安心しています…

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

プロジェクトタイトル: Soundbody
プロジェクトメンバー:中谷 圭佑 Keisuke Nakaya、Kawther Alzaid(GA)|朴 珠媛 Juwon Park、周 佩穎 Patrice Chou、潘 為中 Wei-Chung Pan(TA) 

「Soundbody」プロジェクトは、言語というボーダーを乗り越えるための、非言語コミュニケーションを模索するプロジェクトです。

私たちは普段、視覚情報に大きく頼って生活をしています。オンラインでやり取りをするときもまた、ビデオ通話など視覚的イメージをともなう会話は、より円滑なコミュニケーションをもたらしてくれます。しかし、このような理解しやすい視覚情報は、ときに私たちの想像力を奪ってしまっているのではないかと考えました。

音という限定的な情報にフォーカスし、録音したデータを交換して、お互いの音に注意深く耳を傾けることで、私たちは遠く離れた場所の状況をより深く感じることができると思います。たとえ同じ空間にいなくとも、互いの身体から発せられた音と、一緒に録音された周りの環境音を通して、境界を超えて同じ空間を共有できるのではないでしょうか。

 

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主催:東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科(GA)、国立台北芸術大学芸術跨域研究科(TA)
協力:トーキョーアーツアンドスペース本郷、四谷未確認スタジオ
プログラム・ディレクター:住友 文彦(GA)|黃 建宏(TA)
プログラム・マネージャー:小田部 恵流川、松江 李穂、境 実鈴(GA)|趙 曼君、翁 榛羚、潘 為中(TA)
プログラム・コーディネーター:庄子 渉、山本 浩貴、楊 淳婷(GA)|張 瑋倫(TA)
翻訳:境 実鈴(居心地Igokochi、The 404 Shrine)